第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-6-13 最悪最強の暴力の権化
残りの2体は、無事に無傷の建物の影に着地することに成功し、素早く闇に隠れ潜んでいた。
あとは、このまま王都を脱出して、できれば星隕の大神殿に到達し新たな神の子に寄生したかった。
もっとも、自らの隕石攻撃で大神殿が壊滅していることを、まだ知らない。
(おのれ、おのれ、うおおのれぇえ……! 異次元からの侵略者め、異世界からの災厄め、この平和な世界を滅ぼす大変事め!!)
闇の中、小さなシンバルベリルが赤いLEDのように光っている。その光が鼠のように動いて、人気の無い路地の隅を進んでいた。
ストラは既にリノ=メリカ=ジントを次元マーキングしていたので、その場所を探知できるが、なによりシンバルベリル反応が居場所を確実に教えていた。
外に出る通りは人でごった返していたが、路地裏は誰もいない。時折、降りそそぐ隕石が機銃掃射めいて恐ろしげな音と衝撃を響かせ、リノ=メリカ=ジントは恐怖にすくんだ。
(クソが!! 自分の攻撃で自分が脅かされるとは……なんたる……!!!!)
自業自得というレベルではなかった。
滑稽なほどだ。
まさか、ストラがキヤ=フィンシ=ロを先に排除するとは、想定もしていなかった。
そこが甘いと云われれば、結果論ではそうなのだろうが……ストラほどの敵と相まみえるのは初めてだったので、どうしようもない。
(これが……これが異次元魔王か……!! ゴルダーイとロンボーンを力技で倒したのは……伊達では……!!)
路地から出ようとしていったん止まり、周囲を確認する。火事はまだ遠い。人の流れからも外れている。隕石にさえ気をつければ、破壊された王宮を迂回し、王都を脱出できる。
そう思って、路地から出たとたん、ストラに踏みつぶされた。
「ギャアアア!!」
身体の半分で苦し気にのたうったが、次の瞬間には蒸発していた。
透明となった小さなシンバルベリルだけが、細い通りを転がった。
(都内に逃げこんだのは、あと1匹……)
その1体を倒したところで、15体のうち11体。探索不能な4体は、最悪、諦めるしかない。詳細は不明ながら、その4匹からまた数を増やし、新たな神の子を得て復活する可能性もあったが、もうその時はその時だろう。
風は弱かったが、真っ赤に焼けた隕石が雨のように降り注いでおり、都内の延焼はどんどん広がっていた。消火活動もなく、誰も避難指示も誘導もしないので、混乱と混沌にまかせるしかない状態だった。
いや、既にその夜だけで、ほぼガフ=シュ=イン全土が、そういう状態となっていた。大平原国というだけあり、ほとんど無人の大地ではあったが、そこに大きいものでは直径100キロものクレーターを作るほどの隕石が数十も落ちている。ストラの観測では、把握できた範囲で約8億の隕石がガフ=シュ=インに集中して落下し、幸いにも大半以上は大気圏内で燃え尽きているが、それでも小さいものを含めると、正確な数は不明ながら少なくても2~3億は落ちているだろう。
それだけ落ちれば、直撃にしろ間接的な落下の影響にしろ、点在する街や集落を軒並み壊滅せしめるだけの威力はあると考えられる。
リノ=メリカ=ジントが膨大な魔力で集めた隕石が全体でどれほどの量だったのかは、当人の星隕の魔王ですらよく分かっていない。
一晩のうちに、帝国の最北部は月面のようになった。
その影響が帝国……いや、世界全体にどのような悲劇を与えるのかは、ストラにも予測できないほどだった。
(見つけた……)
都内に落ちた5体のうち、最後の1体はルートヴァンが破壊した王宮の瓦礫の上に落ち、すぐさまその隙間に入りこんで隠れ潜んだ。5体のうち、最も幸運だったと云えよう。
(くそっ……くそッッ……くそが! くそが!! 平和を愛しているだけの……大人しく、平穏に暮らしていただけの我らを……こんな眼に……なんという化け物だ……悪魔……悪鬼……!! なんという最悪の災厄だ……最悪の暴力の権化め……!!)
もう、他の個体がどうなったかも知ることができない。赤いシンバルベリルはまだ健在だが、それを使えないのだから、ただ光っているだけだった。
そもそも、文明すら破壊可能な超絶兵器であるストラが、最悪最強の暴力の権化なのは、この世界にあっても変わらないのだ。
何の因果か、異次元・異世界より到来した超絶破壊自律兵器が目覚め、意思をもって稼働している不幸を、かみしめる他はない。
素早く瓦礫の隙間を這いずり回り、奥へ奥へ侵入していたリノ=メリカ=ジントは、暗闇の中に響く振動と物音に気がついた。




