第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-6-9 テレキネシス
ルートヴァンはペートリューを魔法防護で包みつつ、その防護ごと魔力で引っ張りながら短距離転送をかけ、強力な探索魔術で2人を探しつつ路地を高速で飛んだ。
(残り、504秒!)
上空では、まばゆいばかりに輝いたストラが、大上段から一気にリノ=メリカ=ジントを準超高速行動で全両断すべく吶喊した。
その吶喊を、魔力から直接引き出された超常効果で、リノ=メリカ=ジントが止めた。
「……!?」
ストラが瞬時に現象を観測したが、
(個々の魔力子から放出された膨大かつ微量の未知力場が集合している……まさに、念力か……!)
念力。
これぞ、魔法というか、魔力を利用した現象の中で、最もシンプルかつ効果のあるものの1つだろう。
「やった!!」
「光る剣を封じたぞ!」
「まだだ、一時的だ!」
「このまま破壊しろ!」
「こんな程度で封じられたら、世話ないぞ!」
「ゴルダーイやロンボーンも、やっていただろうに!」
けど、しなかった。
理由は、ストラのパワーと光子剣の強度は、このレベルの「念力」では、とうてい押さえられないからである。
だが、純粋な魔力量では、赤色シンバルベリル15個を持つリノ=メリカ=ジントは、ゴルダーイやロンボーンの数倍から10倍にも達する。
すなわち、正確な測定は不可能だが、概念的には、リノ=メリカ=ジントの魔力総量は、漆黒のシンバルベリル3つと合魔魂を果たしたタケマ=ミヅカにかなり近い可能性がある。
「うおおおおおあああああ!!!!!!」
リノ=メリカ=ジントが気合を入れ、巨大な島でも浮かび上がらせることでもできそうなほどの、とてつもない「力」がストラ……いや、光子剣に集中した。
ストラの攻撃が、完全に空中で止まった。
これまでに計測したことの無いような、猛烈な「力場」が集中している。
「へし折れ!」
「このまま、へし折ってしまえ!!」
「折れ、折れ折れおれええええええええええええ!!」
さらに、時間を稼げばストラの準戦闘モードが強制終了する。
リノ=メリカ=ジント自身はそのことを知らなかったが、逃げるチャンスはできるだろうと考えていた。
と……。
巨大な力場の隙……重力と時空の微かな隙間を縫って、一条のレーザーがリノ=メリカ=ジントを襲った。
本当に一瞬間だけ発生した、力場と力場のゆがみだった。
それでも、力場に押されて、レーザーは鞭のようにしなった。
たまたま命中したのか、そのしなり具合もストラの計算だったのか……。
高熱レーザー光線は、リノ=メリカ=ジントの足元というか、下方で空中に浮かんだまま意識を失ってぐったりとうなだれている少年……キヤ=フィンシ=ロを、腰のあたりから肩口にかけて両断した。
当然、即死である。
「…………」
「…………」
「…………」
「……な……」
「な……」
「……なん……」
「……だと……」
リノ=メリカ=ジントが、呆然と下方を見やった。
宿主が、真っ二つになり、無重力状態のように周囲へ血をぶちまけて死んでいる。
この魔王は、膨大な魔力を使う代わりに、生来特殊な使い方をする。
潜在魔力の高い少年に寄生しないと、その魔力を使えないのだ。
いま、その宿主を殺された。
こういう非常事態のために、予備の神の子候補は、常に複数を確保してある。
が、今はいない。
全て、大神殿にいる。
誰も連れてきていない。




