第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-6-6 これら
ルートヴァンが、合魔魂によりシンバルベリルと一体化した、ヴィヒヴァルンの父王太子より膨大な魔力供給を受けた。
「うぉおおりゃああ!!」
まるでドリルのように転送術の魔力が妨害結界を穿ち、穴を空けた。
床や壁も物理的にぶち抜いて、ルートヴァンが大広間に到達する。
だが、まだ何も大きな魔力は感じなかった。
(ど、どこだ……!)
白木の杖を掲げ、探索術を駆使するが、それらしい気配は分からなかった。
「なにやってる、大公、こっちだよ!」
後ろから黒い矢のようにオネランノタルが魔術で高速飛翔し、まっすぐ奥の間に入った。
「天空に広がる魔力も分からなかったくせに、なんで、あいつは分かるんだ!?」
あわててルートヴァンも飛翔して、その後を追う。
「ジャマだよ!!」
オネランノタルが、行く手を阻む呪文を唱えながら神の子の勝利を祈る神官達や、神聖魔術で攻撃力を強化した手槍や刀を掲げる神官兵士たちを一撃で殺し、一直線に玉座の間のさらに奥の控室のようなところに飛びこんだ。
控室は真っ暗だったが、オネランノタルの四つの眼は闇を見通し、暗闇の中で壁を叩いて泣いている少年をとらえた。
神の子、キヤ=フィンシ=ロである。
遅れてきたルートヴァンが照明魔術を行使し、まぶしさに目を細めた。
その光に、これも目を細めて、キヤ=フィンシ=ロが振り返った。
「……だ、誰だ、この子供は!?」
ルートヴァン、半ば愕然として、キヤ=フィンシ=ロを見つめた。
「これがサマタイだよ」
小柄なオネランノタルが、冷たい四ツ目で、キヤ=フィンシ=ロを見下ろした。
「これが……!? でっ、では、魔王は!?」
「出てきなよ、リノ=メリカ=ジント。いるんでしょ? 逃げようったって、無駄だよ。私を殺さない限りはね」
「…………?」
ルートヴァンが、泣き顔の少年を凝視する。憑依している? 魔王が? この子供に??
だが、とたん、さしものルートヴァンも背筋に冷たいものを突っこまれたような悪寒に襲われ、震えあがった。
キヤ=フィンシ=ロの後ろの闇から、空間を超えて……ゾワゾワと、これまで感じたことの無いようなほど不気味にうごめく魔力の波動がルートヴァン迫った。
「うぅ……!!」
ルートヴァンですら激しい吐き気を覚えて、口を押さえた。
「大公、下がってなよ。この規模でこの種の魔力は、人間には毒だよ」
「し、しかし……」
「何が毒だ……」
甲高い声が聴こえた。
「よくもここまで……」
「オネランノタルが!」
「愚かなイジゲン魔王の協力者!!」
「おとなしく、永遠に彼方の閃光の番人をしておればよかったのだ!」
「余計な……」
「余計な事するなあ!!」
「時間を稼げば、イジゲン魔王はまた木偶の坊になるのだ!」
「私たちを見逃せ……」
「そうだ、殺さぬ代わりに、見逃せ!」
「取引だ」
「取引ィイ!!」
「いい考えだあーッ」
「見逃さないと、2人とも今すぐ殺すぞ!!」
キヤ=フィンシ=ロからウゾウゾと現れた、ウジ虫と甲殻類と人間を合わせたような魔蟲の群れに、ルートヴァンは心底嫌悪を感じ、思わず二歩、下がった。
(な……なんだ……これ……これ……いや、これらが……魔王リノ=メリカ=ジントか……!!)
なにより、極小ながら真っ赤に光るシンバルベリルが、1、2、3……15もある。下手をすれば、黒色……それも、かなり上位の強力な黒色に匹敵するのではないか!?
その膨大な魔力を駆使し、あの隕石群を操っているのだ。
(こいつは、これまでの魔王とは違うぞ……!! 聖下はいまだ本調子ではないうえ、時間制限もある……!!)
ルートヴァン、折れんばかりに奥歯を食いしばり、リノ=メリカ=ジントを睨みつけた。
「……なんだ、人間、その目はああ!」
「生意気な眼だあああ!」




