第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-6-5 憑代
「魔族だああああああ!!」
「魔術師を呼べ!!」
続々と集まった兵士が、たちまち怖気づいた。
「おおお、恐れるな!! 神の子の加護を信じよ!!」
40がらみの聡明なカラウ=バウが、オネランノタルに刀を突きつけてそう兵たちを鼓舞する。
それを聞いたオネランノタル、こんな連中は無視しようと思っていたが、
「サマタイだって!」
思わず、失笑してしまった。
「……何がおかしい!! 魔族めが!!」
さすがに神の子を侮辱されては、ガフ=シュ=イン人は目の色を変える。
「アハハ! 何を怒ってるの? いったい誰のせいで、こうなってると思ってるんだい? いや……サマタイの正体を知らないのか……まあ、哀れだね」
「何をぬかすか!!」
「もういい。時間がないんだ。ジャマだから、みんな死んでよ」
いわゆる即死呪文……暗黒呪文である。
正確には、濃縮魔力の奥底から死の力を引き出す「呪文」ではなく、オネランノタルは元から濃い自己魔力に秘められた力をちょいと解放するだけで、バタバタと人が死ぬ。
まさに、致死性の猛毒ガスだ。
それを、全力で解放したら、どうなるものか……。
数百人単位で、瞬殺することができる。
その場に、一瞬で波動のようなものが充満し……その瞬間には、その場の人間の全員が死んでいた。立ったまま死んでから、みな膝から崩れ、倒れ伏した。
オネランノタルは続けざま、王宮全体に転送や転移を禁ずる効果をかけた。
たとえ魔王といえども、この準魔王級の魔族による効果結界を破るのは、強引に突破……力づくでやるしかない。
オネランノタルも、ちょっとやそっとで破られない自信はあった。
間一髪、何ものかが結界に激しくぶつかる気配がした。
オネランノタルが、その異様で不思議、かつ不気味な気配を探る。純粋な魔力とは、少し違った。
すなわち、人間に魔族が憑り依いている、独特の気配だ。しかも、尋常ではないほど強力な。
(これは……大広間……の奥……玉座の間? の、さらに奥か……?)
ニヤッと笑って、
(逃げ出そうったって、無駄だ……リノ=メリカ=ジントめ……! お前は、ここで死ぬんだよー~~!)
その時、ルートヴァンも王宮内を探索していた。
強力な探索術をかけ、走りながら魔王の気配を探したが……ルートヴァンは、その魔力を捉えられなかった。
(……なんだ……おかしい、魔王というからには、それなりの魔力があるはずだが……何も感じないぞ……!! まさか、王宮にいないのか……!? それとも、既に脱出……!? あるいは、聖下のように魔力を使わないとか……!?!?)
寒さの中、ドッと冷や汗をかき、ルートヴァンが立ちすくむ。
(考えろ……ルートヴァン……ぺーちゃんを信じるんだ……あの、稀有でまったく使えない才能を、使って見せろ……!!)
「大公、なにやってる! サマタイは、王座の間の奥にいるみたいだよ!」
そこにオネランノタルから魔力通話がきて、ルートヴァン、
「サ、サマタイ!? サマタイって、なんです!?」
「あ……そうか、知らないのか! サマタイってのは、リノ=メリカ=ジントの憑代だよ! 急げ、私もすぐ行く!!」
(憑代……!? 憑代だって!? そうだった、この国の魔王は憑依型だ!! 玉座の間だと!? どこだ!?)
そのルートヴァンに、やおら数人の兵士が襲いかかった。勇猛で名を馳せるガフ=シュ=イン兵の、さらに誉れ高い宮廷警備兵である。問答無用で侵入者を惨殺する。
が、魔術バリアが反応し、その斬撃のすべてを防いだだけではなく、ルートヴァンが強力な洗脳暗示法を思考行使。
「玉座の間はどこだ!!」
「4階の大広間の奥です」
だらりと刀を下げて立ちすくんだ3人の兵士のうち、1人が即答する。
探索魔術を駆使し、2階上の大広間の奥の部屋を探しだすと、短距離転送をかける。
ところが、王宮内で転送がかからなかった。
リノ=メリカ=ジントが、妨害をかけているのだ。
「なめるなよ!!」




