第2章「はきだめ」 4-1 組織三つ
フューヴァが苦笑しながら、肩をすくめる。
「……断った後も、性懲りもなく尾行してきやがって。だいぶんまいたつもりだけど、もしかしたら、まききれずにこの場所がバレたかも」
(確かに……三人……いや、四人がこの場所を見張っている……)
ストラの三次元深層探査が、フューヴァを尾行けていたであろう見張りを発見した。
「流石に、レーハーを蹴っておいて、フィッシャルデアやギーランデルに行くわけにはいかない。殺されちまう」
「フューヴァさんは、死にやあしやせんよ……旦那を敵に回すやつは、そっちが死ぬだけでやんす」
「……」
仲間として認識してもらっているという事実に気づき、嬉しくもあり、戸惑いもあった。昨日、会ったばかりなのに、どうしてそこまで。
それを見透かしたように、プランタンタン、
「なあに……似た者同士、うまくやりやあしょう」
プランタンタンの薄翠の眼が、キラッと日光を反射して光った。
「それに、どこに所属しようと、儲かるところがあれば、そっちを優先するべきでやんす」
「……アタシに、レーハーを抜けろって云うのかい?」
「義理や義務でもあるんでやんすか?」
「い、いや……無いよ、あるわけ無い」
「借金とか?」
「う、うん……まあ」
「いくらでやんす?」
「建て替えてもらう気はないよ」
「じゃあ、踏み倒しておしまいなさい」
「ええッ!?」
「もしくは、旦那にどんどん賭けて、とっととお稼ぎなせえ」
「アンタってやつは……」
フューヴァは、プランタンタンの単刀直入さが気に入った。
「それじゃ、あくまでストラさんの意思ってことで……アタシは、三つの組織と所属交渉に入るよ。レーハーには、表向きに、ストラさんを説得しているって形にさせてもらう。だけど、あくまでストラさんの意思だからね……そればっかりは」
「そうでやんす。ねえ、旦那」
「うん」
聴いているのかいないのか、ストラは窓辺に立ち、ひたすら外を眺めていた。外といっても、隣の建物の壁なのだが。
「しかし……三つの組織がストラさんを取り合うってのも、面白いし、危険でもあるぜ」
「そうなんでやすんか?」
「値をつり上げすぎて、あまりに埒があかないのなら、メンツの問題になってくる。ストラさんを潰しにかかってくると思う。潰し競争になったら厄介だし……協力するってことはないだろうけど……ストラさんの強さなら、手を組むかもね」
「ナニをしようと、返り討ちでやんすよ……! ゲヒィッッシッシッシシシ……!!」
プランタンタンが目を細め、前歯を出して笑った。
「組織三つを相手にかい!?」
「旦那の恐ろしさが、嫌でも分かるだけでやんす。フューヴァさんも、覚悟しておきなせえ」
「う……」
フューヴァが、またストラの微動だにしない背中を見つめた。
プランタンタンは、ストラが竜騎兵どもを二、三回瞬きする間に瞬殺した光景や、なによりタッソの街を焼き払っておいて、事も無げに帰って来た様子を思い出した。ついでに公金を失敬して。
「この街だって……どうなるか……跡形も無くなる可能性だってありやあすよ」
「ええ……?」
さすがにそれは……といったふうで、フューヴァが口元を緩めた。が、プランタンタンの真剣な表情に、ゴクリ、と唾を飲む。
「フューヴァさんも、いつでも逃げれる準備だけは」
「う、うん……やっぱり、ここに世話になろうかな……」
「そうしなせえ、そうしなせえ。合流できなくても、探したり待ってたりはしませんからね。とっとと逃げやすんで。あっしらは」
「分かったよ」
そこで一息つき、
「じゃ、両替に行ってくる。ペートリューは?」
「寝てるでやんす」
「え、まだ? 寝るの、遅かったのかい?」
「遅いも何も……昨日、かなり気分がよかったようで……帰って来てからもずっと夜通し飲んでて、あっしが起きたときも、まだ飲んでやしたからね……」




