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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-6-3 悲劇の上塗り

 「何処へ行くつもりなんだろ!?」

 「逃げるんじゃねえのかあ!?」


 まさに野性的な勘で自らへ迫り来る隕石をとらえ、ピオラは魔法効果もある巨大多刃戦斧で迎撃していた。しかし、小石程度のものならまだしも、人の頭ほどもある隕鉄などが真っ赤に灼けて落ちてくるのは、さしものこの斧でも防ぎようが無い。爆発して、ピオラの身体も穴だらけになる。トライレン・トロールの装甲皮膚をもってしても、この熱量は防ぎようが無い。


 そこは、オネランノタルの魔力のバリアと、魔力の矢が迎撃していた。


 この2人でさえ防ぐのでやっとなのだから、動きを止めていたゴーレム軍団は次々に打ち倒された。このゴーレムですら、隕石の大きさによっては、一撃で五体バラバラになるほどの威力なのだ。


 まして、我先に戦場から逃げ出していたガフ=シュ=イン軍の兵士たちは、暗闇の中で、まず巨大隕石衝突の衝撃波で、軒並み薙ぎ倒されていた。


 生き残った者も、広大な大地ながら数千万、数億と降り注ぐ大小の隕石に、次々に撃ち抜かれて倒れた。


 肉体が残っているのはまだましで、大きめの隕石に直撃されたものは、爆発するように木っ端微塵になって焼けた肉片が転がった。


 「番人よお、あたしたちも逃げるぞお! こんなもの、防ぎきれねえ!!」

 「そ、そうだね……大公の後を追おう! どこに行ったんだろ!?」

 「あっちだあ! みやこ・・・のほうじゃねえかあ!?」


 「そ、そうか! 考えたね……リノ=メリカ=ジントのやつが王都にいるのなら、王都は被害を受けないはず……というわけだよ!」


 「感心してねえで……」

 「分かってるよ!」

 オネランノタルも、ピオラを巻きこんで王都に向けて転送した。



 ストラは、自らを構築するプログラムを自由に改変したり、新しい機能を加えるために新規プログラムを組んだりすることは、禁則とされているばかりでなく、そもそもそのため・・・・の機能が無い。あるのは、プログラム修復機能と、組み替え機能である。


 したがって、いま、移動衛星上にあるテトラパウケナティス構造体分離方式による6基の疑似監視衛星を臨時的に攻撃衛星に「転換」しているのは、プログラムの組み替えにあたる。


 監視衛星とは別に、新しく攻撃衛星を作成しなかったのは、エネルギー総量の問題もあるが、いま現在基本プログラム修復作業中により、テトラパウケナティス構造体分離プログラムが使用不可能なためだった。


 しかも、プログラムの組み換えも異様に時間がかかり、かつ上空に集められる膨大な隕石群を観測しつつ攻撃衛星への転換作業なので、余計に時間がかかった。


 さらに、監視衛星としてのエネルギー量のまま攻撃衛星に転換するので、攻撃力もたかが知れている。


 まだ完全に転換作業が終わっていなかったが、隕石群が一斉に大気圏に突入を開始したので、片端からレーザー照射を行って軌道をずらし、また大気圏内で燃え尽きる大きさにまで破壊し続けていた。


 その数、6基で1分間に900個にも及ぶ。

 が、元が約7億8,000万もの小惑星、岩石群である。

 また、観測できていない未知の隕石も、次々に宇宙の彼方より飛来していた。


 さらに直径20メートルを超える岩石は、エネルギー不足で破壊できなかった。軌道が少しでもずれたならば、御の字といったところだ。


 飛び上がってから成層圏にまで上昇したストラの遥か下方で、まさに衛星軌道上からの艦砲射撃か惑星間ミサイル攻撃めいて、地表で次々に大小さまざまな爆発が起きている。その明滅は、連続して花火が炸裂しているようだった。


 そのほぼ全てが、バーレン=リューズ神聖帝国北方の広大な大地……ガフ=シュ=インの国内なのは、リノ=メリカ=ジントがそうしているのか、たまたま・・・・そうなっているのか、不明である。


 ほとんど無人の大平原であることが唯一の救いと云えたが、集落や都市を直撃しているものが多数あるのも事実だった。家々が破壊され、家族ごと犠牲になるというのはマシなほうで、中には直径数メートルの隕鉄が直撃し、数千人の人間と数万頭の毛長牛ゲルクごと消滅した村もあった。


 それでなくとも、巨大隕石の衝突による衝撃波の直撃による被害もあったし、この数千万から億にも及ぶ隕石群衝突によって巻き上げられた土砂や煙が空を覆い、核の冬にも匹敵する大災害を引き起こすのは必須であった。


 ただでさえ帝国はフィーデ山の噴火、ウルゲリアの高濃度魔力汚染で食糧危機は確実なのに、ここに北方の超絶大規模隕石群衝突で、さらなる悲劇に見舞われることとなったのである。

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