第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-5-15 流れ星のゲリラ豪雨
その目が、警告灯めいて真っ赤に光っていた。
「どいつが大将だあ?」
赤い視線が、ギロギロと将軍たちを見据えた。
「ヒ……」
若い将軍の1人が、腰を抜かしてへたりこんだ。
「で……出会え。出会え!! 化け物だ!! 殿下を御まも……!」
そう叫んだ近衛隊長の首が、大多刃戦斧の横薙ぎの一撃で跡形もなくぶっ飛んだ。いや、スイカを銃撃したように、爆発したといってよい。
「どれが大将でも、別にいいやあ」
赤い目がニンマリと笑い、がっぱりと開いた牙だらけの口から、蛇めいて長い舌が伸びた。
「この白鬼めが!!」
さすが、藩王……ガミン=ドゲル、藩王のみが佩刀を許される宝剣を抜きはらい、果敢に斬りかかった。
「へっ、陛下!!」
レザル=ドキが叫んだが、もう、鋼鉄のハンマーめいたピオラの左裏拳が、斬撃ごとガミン=ドゲルをとんでもない勢いでぶっ飛ばしていた。
もんどりを打って暗がりの奥に消えた藩王を目で追う間もなく、レザル=ドキはピオラの振りかざした多刃戦斧で肩口から腰にかけて真っ二つとなり、血と肉の塊となって夜の闇の草原に転がった。
「アッはははあ! そらあ、そらああ!!」
ピオラが巨大な多刃戦斧を草でも刈るように振り回し、そこらを右往左往する兵士を見境なく鏖殺してゆく。
血も凍りつく惨状のただ中で、もう、誰も敵を判別できていない。
悲鳴もなく、理由もわからず即死するか、ひたすら闇の中を恐怖と殺戮から逃れ惑うだけだった。
ゴーレム達も、あらかじめ与えられたオネランノタルの命令「敵の陣容を細かく分断し、各個撃破、皆殺しにしろ」により、自律式殺人マシンと化して、体当たりや槍の一撃で、粛々と兵士を駆逐した。もちろん、魔術師や神官兵も区別無い。
ちなみに、ゴーレムは1体も破壊されなかった。
全機が健在で、大陣容をバラバラにしつつ、あらかた兵士を駆逐した後、オネランノタルの次の命令を待って動きを止め始めた。
それを見やって、ピオラが叫んだ。
「なんだあ、番人よお! こいつら、動きが止まってるぞお!?」
「そいつらは、至極単純な命令しかきけないんだよ。自分で、ものを考えられないし」
いつの間にやら、ピオラの横に闇と同化した黒色ローブ姿のオネランノタルが現れる。
「なんだよお、そりゃあ! つっかえないなあ!」
「道具なんだから、使いようってことさ」
「遠くまで逃げてる連中は、どうするんだあ? 追い打つのかあ?」
「そうだね……王都まで進軍するか……それとも」
「みやこには、敵の魔王がいるんだろお?」
「それなんだよ。リノ=メリカ=ジントは、ストラ氏と大公に任せてある。お手並み拝見といこうじゃないか」
「じゃあ、ここで待機だあ。御星サマが落っこって来るってんなら、ここなら見晴らしがいいぞお!」
「そうだね……あっ」
オネランノタルが、フードの下の闇の顔を上げて天を見据えた。
つられて、ピオラも空を見上げる。
ところどころ曇っている雲の合間の満点の星々の大海の中に、一筋……二筋、三筋……と、流星が流れ始めた。
「流れ星だあ!」
「……」
オネランノタルが無言で観察していると、見る間にその数が増えた。
「うわあ! 流れ星の雨だあ!」
すさまじい数の流星群に、無邪気に、ピオラが声を上げた。
だが、その数が、明らかに異常だった。
どんどん増える。
いや、増えるというレベルではない。
瞬く間に、流れ星のゲリラ豪雨だ。
まるで天蓋を、光の筋で無数の擦傷をつけているようになった。
夜空の全体が、光っている。
「すッげええええ!!」
ピオラが感嘆した。
しかし、見惚れている場合ではない。




