第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-5-11 妙なやつら
「それは、落ちてくる星の大きさによるのではないでしょうか? それこそ、石ころ程度の物が1つ2つ落ちて来るのなら、大したことはないでしょうが……例えばそれが雨あられと降って来れば、街の1つや2つも滅ぶかと。さらに、もっと巨大なものが大量に落ちて来れば……国は、穴だらけになるのでは」
「まあ、確かに……なるほど。そうか……なるほどね……」
オネランノタルが細かく頷く。少しずつ、イメージが浮かんできた。
「しかし、名前に惑わされていないか? ただの例え……何かの異名の可能性は?」
「もちろん、あります。ですが……」
ルートヴァンが、チラッとストラを見た。ストラはもう、妙な声は発しておらず、ただ彫像のように軽く両手を掲げて小首をかしげ、半眼で天を睨んでいる。
「聖下がずっとああやっているのが、とても気になります。聖下は、無意味にあのようなことをする御方ではありません。その星隕の魔王の落とさんとしている星の屑……百や千ではありますまい……万……いや、億かも……それを、観測し、把握しているのではないかと」
「億だってぇ……!?」
さしものオネランノタルも四ツ目を丸くし、ストラと天空を交互に見やった。
「……なんとなく、分かってきたよ。だけど、途方もない話だね……そんなもの、私や大公では、どうしようもないんじゃない?」
「で、しょうね。まさに、人知を超えた攻撃かと」
「それが本当だとしたら、タダものじゃないな……リノ=メリカ=ジントめ……そんな力を、隠していたとはね……」
「ですが、聖下はおろか、私ごときに見破られるあたりが、その魔王めの限界かと」
「フン……それは、自慢かい?」
オネランノタルがニヤッと笑い、ルートヴァンは無言で笑い返した。
「分かったよ。よし、じゃ、私は私の仕事をしよう! ピオラ、行こうか!」
「やっと話が終わったのかあ!?」
待ちくたびれたとばかりに、ピオラが両腕を振り回す。
「終わった終わった。さ、行こう行こう」
「応!」
「ピオラ、そのうち、無数の流れ星がこの地上まで落ちてくるらしいよ」
「流れ星があ!? まっさかあ!」
「ハハハ、それが普通の反応だよね!」
オネランノタルが右手を振り、ピオラと共に平原まで短距離転送で消えた。
それを見送り、フューヴァが、
「しっかし、ストラさんの周りにゃあ、妙なやつらが集まってくるなあ」
しみじみとつぶやいた。
「あっしらも含めて、でやんす!」
「ちげえねえ!」
プランタンタンとフューヴァが笑う。
「ルーテルさんよ、ちゃんと使えるのか? あんな、魔族とトロールなんてよ」
「嫌でも使わないと……スーちゃんの天下は、支えられないさ」
ルートヴァンが、そう云って苦笑しながら肩をすくめた。
「さて……と、星が落ちてくる攻撃がいつ始まるのか知らないが……今は聖下を信じて、オネランノタルとピオラが王都の残存軍団を蹴散らすのを、ゆっくりと見物しようじゃないか」
「見物場所にしちゃあ、ちょっと遠くて寒いけどな」
「はいはい」
ルートヴァンが魔術を思考行使し、ストラを含む5人のいる周辺が風よけ(と、ついでに強力な対物理攻撃、対魔術防御結界)に包まれる。
「さすがルーテルさんだぜ」
フューヴァが屈託なく笑みを浮かべ、ルートヴァンはその笑みに満足した。
王都では、王太子……いや、藩王になったばかりのガミン=ドゲルが自ら先頭に立ち、王都の近くの練兵場に全軍が集結していた。
その数、約53,000である。
藩王国全土全州より招集した場合の1/10ほどの規模であるが、それでも、帝国内ではこれだけでも充分すぎる兵力といえた。ガフ=シュ=インは、王都防衛軍だけで下手な国の全軍の規模の兵力を有している。
「これより、帝国中を侵略して回っている、悪逆非道なるヴィヒヴァルンの魔王の手先を駆逐する! 平原に軍を進めよ! 恐るべき敵の魔術師が待ち構えているだろうが、いま、神の子が大神殿より出られ、この王宮におられる! 恐るるに足らず! 神の子の起こす奇跡を信じよ!! ガフ=シュ=インとバーレン=リューズに栄光あれ!!」
「うおおおおお!!」
ガミン=ドゲルの檄に、兵士たちが応じた。
が、半分以上が、疑心暗鬼だ。




