第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-5-10 星が落ちる
「行け!」
「ハアッ!!」
ガミン=ドゲルが立ち上がり、颯爽と踵を返した。宰相と近衛将軍も、その後ろに続く。藩王……いや、元藩王の幼馴染である2人が、汗だくの形相で顔をしかめ、ドゲル=アラグの首を横目に玉座の間を出た。
「お、動きがあったみたい」
王都方面を凝視していたオネランノタルがそう云い、ピオラやプランタンタンも目を細める。
「都から、軍勢が出てきたでやんす」
「いよいよ、攻撃してくるんじゃない?」
「平原で戦うんでやんすか?」
「そうなるね」
オネランノタルが丘の上より平原を見下ろして、ほぼ完成したゴーレム軍団を整列させた。
その数、約2,000。
「正確には、1,983体だよ」
「細かいことは、いいんだよお!」
ピオラが、肩をグルグルと回す。
「あたしは、あいつらを率いて、あの大きな街を滅ぼせばいいんだなあ!?」
「その前に、あの軍団の相手をしてやんなよ!」
オネランノタルがそう云って笑った。
「大公、大公!」
「はい、ここにおります」
ストラの近くでずっと空を睨んでいたルートヴァンが、杖を取って前に出た。
「リノ=メリカ=ジントが何をやらかすかは想像もつかないが……大公と、ストラ氏に任せていいんだね?」
「はい。御任せを。ただ、色々と御手伝いいただく場面もあるかと」
「それは、こっちこそ任せてよ。それに、いまはあの有象無象を完膚なきまでに叩きのめして、星隕の魔王を引きずり出すのが最優先だよ」
「いかさま」
「フ、フフ……大公の話では、ストラ氏の力を使って……先般、軍団の半数を一撃で焼き殺したと云うじゃあないか……。それなのに、恐れを知らないのは、勇敢なのか、無謀なのか……」
オネランノタルが四ツ目を細めて、ニヤニヤする。
「それとも、時間稼ぎかな?」
「そうかもしれません」
そう云うルートヴァンを振り返って、オネランノタル、
「と、云うと?」
「恐らく……我々の常識を完全に度外視した、恐るべき規模の魔法攻撃を準備中ではないのかかと」
「どんな攻撃?」
「さすがに、そこまでは……」
オネランノタルが漆黒と真翠の眼を、ルートヴァンへ向けた。
「言葉を濁すんじゃない、大公。君はもう、予測がついているはずだよ。ただ、あまりに常軌を逸しているので、自分でも自信が無い。だが、相手は魔王だ。我らの常識は通用しないよ。云ってみて」
「そうですか。それでは、申し上げましょう」
ルートヴァンがそう云い、薄曇りの空を指さした。
「先般も云いましたが、時おり、空から星が落ちてくるのは、事実です。流れ星を、観測しことはおありで?」
「流れ星ならあるよ」
「あれは、空の向こう、天の奥から石ころやなんやの星の屑が、燃えながら地上めがけて落ちてきているのだそうで」
「ホントに?」
「はい」
「え、じゃあ、空の向こうに石ころがたくさんあるっていうの?」
「そうです」
「信じられないな。誰が、何のためにそんな石ころを空の向こうまで打ち上げたんだい?」
「それは、存じません。まさに、神の御業かと」
「ふうん……」
「しかも、それが、時おり燃え尽きずに、そのまま地上まで落ちてくるとお考え下さい」
「そんなことが?」
「はい」
「で? その星が落ちるのが、星隕の魔王の攻撃だと? そんなものが、どれほどの威力があるっていうんだい?」




