第2章「はきだめ」 3-5 尾行者
「さ、帰りやしょう。良かったらフューヴァさんも、こっちに移ってきやせんか。まだ、部屋は空いてたはず……ペートリューさんの酒置き場を整理すれば!」
「ひェゅっ…!!」
ペートリューが、シャックリと悲鳴を合わせたような声を発した。
「ははは……とりあえず、いまはいいよ」
「左様で……」
プランタンタンは椅子から下りると銀貨と端数の銭貨をそれぞれ頑丈な革の袋に入れ、重そうに腰へ縛りつけた。
「この街の金貨は……1枚500トンプでしたっけ」
「だいたい、500から700だね」
「少しでもガサが減るなら大歓迎で……シッシッシシシ……!」
四人はフィッシャーデアーデの裏手関係者出入り口から出て、アパートへ向かった。
「住所は、ペートリューさんに……ペートリューさん!」
夜道を歩きながらまだ巨大ジョッキを傾けているペートリュー、泡だらけ口で住所を伝えた。
「分かりました」
緩衝地帯なので、覚えやすい。
と、
「五人、尾行してくる」
いきなりストラがそんなことを口走ったので、フューヴァが驚いて後ろを見やった。三人ほど、バツが悪そうに立ち止まったり、分かりやすく路地に消えたりした。後二人は、よく分からなかった。
「なんで、わざわざ着いてくるんでやんす? ま、まさか、この御金様を奪い返そうと……!?」
プランタンタンが大事そうに、ケープの下で腰の革袋へ手をやる。
「さあ……どこに住んでるか、確認したいんじゃないか? ストラさんを、組織に取りこめなかったからね……動向を把握しておきたいんだろうさ」
「排除する?」
事も無げに云い放つストラに、
「いいえ、別にかまわないでしょう。暗殺さえ気をつければ……」
「暗殺う? バカなやつらでやんす。あの強さを観て、まだ分からねえとは……いや、あんな試合用の強さでしか判断できねえんじゃ、無理もねえでやんすが」
「じゃ、明日……昼過ぎに両替しに行くよ」
「お願いするでやんす」
フューヴァが別れ、暗がりに消えた。
三人はしばらく無言で歩いていたが、
「……旦那、やっぱり気味が悪ぃんで、その……」
「いいよ」
云うが、歩きながらまたもストラが威力を最弱にした球電を五つ、飛ばす。プラズマの塊だが、空間が少し歪んで見える程度で、基本的に不可視だ。完璧に操作された磁力線に乗り、正確に尾行する五人の追手に向かう。
バチッ! 小さく静電気が弾けるような音がして、
「アツっ……!」
「ギャ…!」
「……!!」
五人が五人とも、感電して倒れ伏し、またひっくり返った。
「ざまあみろでやんす……!」
シッシッシ……と笑いながらプランタンタンが肩を揺らし、ペートリューは巨大ジョッキの底のほうに残っていたビールを飲み干して、
「ああ、いい気分!」
空のジョッキを夜空に掲げた。
4
翌日、フューヴァは昼過ぎまでに現れず、場所が分からないのかなと心配していたら、夕刻近くになってようやくアパートを訪れた。
「すみません、遅くなりました」
少し、顔が引きつっている。
「迷いやしたか?」
「いや……大丈夫。ストラさん……ちょっと、ご相談が」
何事かと思ったが、
「昨日の試合の様子が、さっそく各組織の上の方に報告されたようです。朝から、私が所属するレーハーのエライのがやって来て……ストラさんをレーハーに引き入れろと」
「ははあ……組織に所属して試合しろっつうことでやんすか」
「そういうこと」
「なるほど読めたでやんす」
プランタンタンが細い顎に細いを指をそえ、
「他の組織……名前は忘れやあしたが……そっちも、ストラの旦那を引き入れようと、フューヴァさんに接触してきたんでやんすね?」
「御明察」




