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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-5-3 星隕の魔王

 「なるほど……」


 「ふだんは、王都の向こうの大神殿に閉じこもっているんだけど……魔力が移動している。王都に出張っているんじゃないかな」


 「それは好都合。詳しく探れますか?」


 「私や大公では無理だな。腐っても魔王だ……すごい結界だよ。おおまかには、分かるけどね」


 「では、やはり引きずり出しますか……直接、攻めこんでも、どんな罠があるか分かりませんし。罠を食い破るにしても、エライ効率が悪そうだ」


 「だね」

 ニヤニヤしながら、ルートヴァンとオネランノタルがうなずきあう。

 「作戦は決まったのかあ!?」

 腕をグルグル回して、ピオラが前に出た。


 「あたしは、あの魔法の兵隊の軍団を率いて、敵の軍勢を皆殺しにすればいいんだろお!?」


 「まあ、そういうことだ。ピオラ殿、異次元魔王聖下の元、大元帥を務めていただきたい」


 「なんでもいいよお!」


 「攻め方は、正攻法で行きましょう。軍勢を一掃し、正面から堂々王都を侵略したら、人々も動揺するだろうし、魔王も出てこざるを得なくなる。およそ、国を治めているというマトモ・・・な思考がある魔王ならば、ね」


 「なんでもいい。私は、しばらくゴーレムの製作に集中する。2日もあれば出来上がるよ。その間……」


 「もちろん、魔法攻撃は僕とオネランノタル殿の鉄壁の防御が。物理的な妨害は……ありましょうかねえ。あったとしても、大元帥が……」


 ピオラが、まっかせろよお! というドヤ顔で鼻息を吹いた。


 「大公、遠方は招集する時間が無いため無視するとして……周辺国衆から徴発された軍勢は、何人ぐらい集まると観るんだい?」


 「いちおう、手の者に参集の妨害を命じました。南部大陸の得体の知れぬ魔術を使う、魔獣使いの連中です」


 「なるほど……それでか。やたらとゲドルどもが集まってるよ。すごいじゃないか。これほどの魔獣使いは、私も見たことが無い。褒めてしかるべきだよ!」


 「伝えておきましょう」


 「うん。これなら、集まったところで5万……いや、3万も行くか行かないかだね。王都の残存兵力とあわせても……」


 「およそ7~8万かと」


 「いいところだね。私の・・ゴーレムが2,000もあれば、壊滅は必至。あとは、リノ=メリカ=ジントのやつがうまく出てくればいいけど……」


 「厄介なやつですか?」


 「そもそも人間の子供に憑りついて、ウラでコソコソやるようなヤツだよ。とても、表に出て戦うとは思えないね」


 なるほど、リノ=メリカ=ジントとかいう魔王は、そういう・・・・魔王か……と、ルートヴァンが片眉を上げる。


 「オネランノタル殿……その、リノ=メリカ=ジントという魔王の号は……星……なんといいましたかな?」


 「星隕ほしおちの魔王だよ」

 「星……落ち……?」

 ルートヴァン、遥か天空に広がっている膨大な魔力を、改めて気にかけた。


 「まさかな・・・・

 「空がどうかしたのかい?」

 「オネランノタル殿、天空に広がる巨大な魔力を、どう観ます?」


 「天空に?」

 オネランノタルが、薄い初冬の青空を見上げた。

 「いや……私は、特に感じないな」

 「なんですって……」

 ルートヴァンが、息をのんだ。


 (オネランノタルほどの魔族が……この魔力を感じない・・・・だって……? 魔王の移動した魔力は感じるのに? そんな、バカな……。僕を騙そうとしているのか……? いや、ここに至ってそれは無いだろう……では、どうしてだ?)


 ヴァルンテーゼ魔法魔術学院では、独特の授業として高レベルの「魔力感知能力」の開発に力を入れている。これは術というより、能力だった。また冒険で役立てるというより、政敵の魔術師の魔術を、魔力移動の段階から探知して妨害・阻止するためだ。ルートヴァンも、もはや無意識のレベルでそれを叩きこまれており、かつ超一流の腕前だった。


 それが、天空に果てし無く薄く広がる膨大な魔力を捕らえたのだ。オネランノタルにすら、広く、薄すぎて感じられないほどの規模の。


 「空がどうかした?」

 「オネランノタル殿、星落としの魔術を、ご存じで?」

 いわゆる隕石攻撃……メテオの呪文だ。


 「星が、落ちるわけないだろ! なにを云ってるんだ?」

 オネランノタルは、さも人間は面白いことを云う、というふうに笑った。

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