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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-4-16 竜の軍団

 もう、ネルベェーンが杖を振る代わりに足踏みでリズムを取りながら、未知の言語で呪文を唱えている。お経というか……不思議な、歌のような呪術だった。


 キレットも身体を揺らしてリズムを取り、同じ呪文を唱えだした。キレットは手ぶりも加えて、薄い灰色の空に向かって祈りを捧げる。


 効果は、すぐに現れた。

 「うおお……!」


 まるでカラスが集まるように天には各種の飛竜パラゲドルが、一面の大地にはまさに狼の群れのように何種類かの狼竜ベゲットの大群がどこからともなく続々と集まった。


 その数、合わせて1,000はくだらない。

 小動物ならまだしも、全長や翼長が10メートルはある怪物どもだ。

 その迫力は、広大な世界ならではのものがあった。


 「こっ……これ・・を、2人が操っているっていうのか……!?」

 シーキが度肝を抜かれ、硬直してつぶやいた。

 「素晴らしい!」


 ホーランコルが、感動でうち震える。

 「これに乗って、陽動を!?」

 「いいえ」

 キレットが、不敵な笑みでホーランコルを振り返った。


 「我らはここを動きません。これらを操り、ゲドルの軍団として、王都に集結する各地の兵を襲撃します」


 「な、なんと……!」

 ホーランコルとシーキが、驚いて眼をむいた。


 「そ、そうか、飛竜パラゲドルが空から動員されたガフ=シュ=インの軍勢を探し、狼竜ベゲットがその軍勢を襲うのか……!」


 「そうです。元は、敵の部族にかける大規模な呪いの一種の応用ですが……うまく、かかりました。敵を滅ぼさなくてもいいと殿下がおっしゃいましたので……。陽動や牽制には、これで充分かと」


 「充分すぎます! いやあ、流石……素晴らしい! 流石です!!」

 ホーランコルが、手を打って2人を讃えた。


 「ただ、私とネルベェーンは呪いに集中しますので、ここを発見され、襲われては……」


 「そのための、私とシーキさんです! お任せを!」

 「御願いします」

 「シーキさんも、よろしいですね!?」


 ホーランコルにそう云われたシーキ、決意を秘めた表情となり、

 「すまん、あの飛竜パラゲドルを1頭、貸してくれ。魔法で乗れるんだろう?」

 キレットとホーランコルが眼を合わせた。

 「どうしたんです?」


 「やはり、王都にひとっ飛びしてくる。食料と水を買い付けてくるよ! 何日間、ここにいるか分からないのだろう?」


 「1人で行くんですか!?」


 「心配するな、逃げたりしないよ! こうなりゃ一蓮托生だ。何も事情を知らない、旅のバントックの竜騎兵崩れとでも云えば、物くらい売ってくれるだろ。パッと行って、イジゲン魔王の攻撃が始まる前に手早く戻ってくる。ついでに、王都の様子を探ってくる」


 「シーキさん……」


 「毛長牛ゲルクであと10日ほどなら、飛竜パラゲドルで往復3日といったところだ……。余裕を見て、5日後に戻ってくる。王都は、これまでに6回、行っている。バントックの竜騎兵を、見たことがあるんだ。王都でね。だから……」


 「分かりました。シーキさん、よろしくお願いします。キレットさん!」


 ホーランコルがそう云うや、キレットが手を上げ、飛竜パラゲドルが1頭、ふわりと降りてきた。特務騎士として、ガントックで騎竜の訓練経験もあるシーキは、ホーランコルとは比べ物にならないほど上手に乗ると、一気に飛び上がって王都方面へ向かった。


 「……いいのか、ホーランコル」

 ネルベェーンが低い声を発したが、ホーランコル、


 「フフ……飛竜パラゲドルはキレットさんの支配下にあるし、王都で逃げたところで、どうしようもない。帝国本国人は警戒されるだろうし、留まっていてもどのみち魔王様の侵攻に巻きこまれる。それが分からない奴じゃないだろう」


 「確かに」

 ネルベェーンが口元を緩め、再び術に集中した。

 「チィコーザへの報告もあるだろうし、な」


 「では、シーキさんは期待せずに、まずは殿下の命を実行しましょう。王都へ向かう各地の軍勢を探し、襲います。なに……その軍団から、補給物資を奪えばいい」


 「えっ……ゲドルに、そんなことができるんですか?」

 「できますよ」

 事も無げに云うキレットに、ホーランコルは感心して口笛を吹いた。

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