第2章「はきだめ」 3-4 28,000トンプ
その時、オートで常時行っている広域三次元探査機能が、ストラの精神にアクセスしてきた。大まかなところは既に探査済であり、特に変化があった場合にのみ、情報を上げてくる。
(……観客内に、エルフ……プランタンタンとは近縁別種個体……先日まで、この街にプランタンタン以外のエルフはいなかった……性別はメス……異常な量の魔力子を体内備蓄している……要注意……シンバルベリル反応は無し……)
何者だろうか。試合が終わるとサッサと会場を後にし、迷路のような裏路地を迷いなく遠ざかってゆく。
こちらも、いちおうマークした。
控室に戻った四人、無意識のうちに、またそれぞれ試合前と同じような位置につく。
「いやああ~~~~勝つって分かっていても、胸が踊りやしたねええ~~~。この街の人らがのめりこむのも、分かりまさあ」
また足を投げだして豪華な椅子に座り、プランタンタンが深呼吸した。
「しかし、けっきょく旦那の勝率は8倍……あっしが8,000トンプ、ペートリューさんが6,400トンプ、フューヴァさんが480トンプ、ストラの旦那の試合料が7,200トンプ……合計で、あっちゅう間に22,180トンプも儲かっちまいやした。残金も6,200トンプあったんで、全部でほぼ28,000トンプでやんす」
「二万八千……」
フューヴァ、あまりに現実離れして、ついてゆけぬ。
「げえええええええっっっっっシシシシシシッッシッシッシッシシシ~~~~!!!!!!!! さっっっすが、ストラの旦那でやんすううううう……うひぃーっシシッシィイイイ!!!! げひぃぇッッシッッシッシッシッシシシシぃいいい~~~!!!!!!」
椅子の上で、腹を抱えてプランタンタンが笑う。涙を浮かべながら、
「……ですがねえ、こんなん序の口でっせええ~~~。ま、今日みたいなバカ勝ちは、もうしやせんけどね」
場内で売ってたビールを樽みたいな巨大ジョッキで買い、祝い酒にガバガバ飲んでいるペートリューが、
「そんなに大金を賭けないって事?」
「さいでやんす」
「どうして?」
「元締めに、睨まれるでしょ? ね、フューヴァさん」
フューヴァは机の上に並べられた200枚以上の銀貨を唖然として見つめていたが、いきなり話をふられ、
「えっ? え、あ、ああ……まあな……」
「面倒はなるべく避けて、あとはチビチビ賭けて、堅実に儲けやしょう」
「そんなもんなんだ……」
「で、フューヴァさん、後で、ペートリューさんと両替所に行って、この銀貨を金貨に変えてきておくんなせえ。いつまでもジャラジャラ持ち歩きたくねえんで」
「えっ……アタシがかい?」
「だって、あっしはそんな出歩かない方がいいんでやんしょ?」
「でも、代理人ったって、この闘技場の中だけだよ。外でも、アタシをそんなに信用するのかい? 詐欺師と呼ばれてるアタシを」
「信用はしてませんぜ」
「ハッキリ云うね」
フューヴァが苦笑。むしろ、好感がもてた。
「じゃあ、なんでアタシに大金を預けるんだ?」
「旦那のタンチ魔法をナメてもらっちゃあ、いけやせんぜ。フューヴァさんはもう、一蓮托生でさあ。どこに逃げたって、旦那にゃあ筒抜けで……」
そういうことか。フューヴァは、また壁の方を向いてぼーっと突っ立っているストラの後ろ姿を見つめた。もう、決意している。
「アタシだって、ストラさんから離れるつもりはないね。いつか、この街を出るにしたって、どこまでもついて行くさ」
その言葉に、プランタンタンがニヤッと笑った。
ペートリューはよく分からず、意味もなくはにかみながら、とにかく飲む。
「480トンプは、フューヴァさんの御金様でやんすから、自由にお使いなすってくだせえ。何かと、物入りかと存じやす」
「え、いいのかい?」
「あっしらだって別に……いますぐどうこうじゃねえでやんす。とにかく、いまは稼げるだけ稼ぎたいだけなんで。使えるときに、使ってしまっておくんなせえ」
フューヴァが、フッと笑った。
「ありがとよ」
銀貨五枚を手にとり、
「後で釣りを返すよ」
「了解でやんす」
興奮して疲れたプランタンタンが、ねむそうに眼を細め始めた。




