第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-4-13 ルートヴァンの役目
「藩王よ」
「ハハ!!」
「我らはこれより、星々を呼び寄せる。我らも、魔王撃退のために戦うぞ、藩王よ」
(……我ら……??)
いきなり神の子が複数形を使ったのを、一部の者は聴き逃さなかった。
(このバカ蟲ども!! 言葉に気をつけろや!!)
ドゲル=アラグ、後ろから見えないのをよいことに、顔を歪めて目配せする。
「藩王よ、共に戦うのだ。ヴィヒヴァルンの野望を打ち砕くために」
「ハハアーーーッ!! 我ら一丸となって、ヴィヒヴァルンの老獪王と新たなる魔王の野望を打ち砕くべく、全身全霊をもって邁進いたしまする!!」
ドゲル=アラグがそう叫び、敷物に額をこすりつけたので、藩王の後ろの諸官もそういうことかと思いなおし、一斉にそれに続いた。
「託宣は終了した。藩王陛下、神の子を御部屋に……」
(御部屋?)
大神官の言葉に、ドゲル=アラグは耳を疑った。
(大神殿に帰らぬのか!)
思わず顔を上げ、素朴であどけない少年……キヤ=フィンシ=ロの顔を仰ぎ見る。
キヤ=フィンシ=ロが、凝と澄んだ目でその藩王の汗だくの顔を見返した。
ドゲル=アラグは、いまにもそんな神の子の背後からうぞうぞと魔王が出てきそうで、気が気ではなかった。
「妙な魔力が動いている」
やおら、ルートヴァンが寒風吹きすさぶ曇り空を見上げてつぶやいたので、フューヴァがルートヴァンを見やった。
ストラと合流するために西へ向かう転送魔法の、休憩中のことだった。
「どうしたんだよ?」
「うーん……」
ルートヴァンが顎に手を当て、現象を整理した。
(これほどの魔力の動き……ガフ=シュ=インの魔王以外に考えられないが……範囲が広大すぎる。影響範囲が、ほぼ、見渡す限り空一面じゃあないか……)
これまで、ストラはレミンハウエル、ゴルダーイ、ロンボーンと3人の魔王と戦ってきたが、みな膨大かつ強大な魔力を一点集中するタイプだった。扱うエネルギー源が魔力ではないがストラもそうだし、そもそも個体規模で扱うのだから、そうなるのは自然だ。
しかし、強大ながら異様なほど薄く広く魔力を扱うのは、何のためなのか?
しかも、遠く離れた天空に。
さしものルートヴァンも、皆目見当がつかぬ。
「大きな魔力の動きが気になるんだけど、なんでそうなるのかが分からない。おっと、魔力に関したって、僕でも分からないことはいくらでもあるのさ。世の中、広いからね」
ニヤッと笑いながらそう云うルートヴァンに、いつもの「ルーテルさんでも、分からねえことあるんだな」というセリフを先回りされたフューヴァ、ニヤリと笑い返し、
「その広さを、見せたかったんだろうな、王様と先生はよ」
「そうかもね」
ルートヴァン、なにやら祖父ヴァルベゲルや恩師シラールの顔が、妙に懐かしくなってきた。
「さて、この魔力の動きに気づいて何も手を打たないのでは、スーちゃんに何か云われる前に、その2人に何を云われるか分からないよ。どうしようかな……」
「分からねえものは、どうしようもねえだろ。ストラさんか、新しく仲間になった魔族とやらにまかせたらどうだ? そんなスゲエ魔族が仲間になったってんならよ、ルーテルさんの役目も変わってくるんじゃねえの?」
ハッと息を飲み、ルートヴァンがフューヴァを凝視した。
(そ、そうか……もう、魔術に関しては、僕以上が聖下の側についているんだな……。じゃあ、フューちゃんの云う通り、僕の仕事も役割も変化するだろう)
すなわち、それは「政治」だ。魔王ストラの治める世界の為政者の筆頭になるのは、ルートヴァンをおいて他にないのだ。
(流石だよ、フューちゃんは)
心底感心し、そんな自分の側に常にいてほしい存在の筆頭は、君だよ、とまだ心の中でだけ確信し、ルートヴァン、
「じゃあ、ちょっとキレット達に頼み事でもするか」
「キレットに?」
ルートヴァンが杖を操作し、キレット一行の近くに待機させている連絡用魔法の小竜を操った。かなり離れているが、ルートヴァンであれば、ほぼ時間差なく操作できる。




