第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-4-11 サマタイ、動く
「予備しかおらんのだぞ!」
「やめんか、馬鹿ども!!」
「覚えておれ……!」
「おまえこそ……!」
「落ち着け……まずは、神の子を王宮に移すのだ」
「前線に出るのか……!」
「そうだ。藩王では話にならぬ」
「いちいち藩王を呼びつけ、藩王を通していては、イジゲン魔王の侵略速度に、とてもとても太刀打ちできぬわ」
「そうだ、もうジ=ヨを落としたのだぞ!!」
「彼方の閃光の番人までも手懐けおった!!」
「オネランノタルが!! あの、能天気のクソバカものめ!!」
「クソたわけ!」
「なにを考えておるんだ!!」
「やつの転送であれば、明日にもオーギ=ベルスが攻めたてられるぞ!!」
「そうだ、しかも、藩王のやつめ、早々にイジゲン魔王へ降伏し、この機に我らを倒させ、この北の大地をイジゲン魔王に差し出そうとしておる気配がある!!」
「なんと……!」
「まことか……!?」
「確証は、無いがな……」
「確証も何も、心を読めば一発よ!!」
「不届きな藩王を操ってしまえ!」
「待て……藩王ごときを操ったところで意味はない。神の子の言葉に逆らうものは、この国には藩王以外におらん……」
「いざとなれば藩王を討ち殺し、第1王子に跡を継がせよ」
「託宣としてな!」
「そうだ」
「それがいい」
「そうしよう、そうしよう」
「では、まず王宮へ向かう……!!」
ジ=ヨからオーギ=ベルスまで、いくら街道を毛長牛で飛ばしても、3週間はかかる。
昼夜にわたってジ=ヨを焼きつくす炎や、天まで立ち上る黒煙も、流石にオーギ=ベルスからは見えない。
風がなければ、遥か西の方角の空が妙に曇っているのが確認できるかもしれないが、この季節は北西の風が吹きすさび、黒煙もたちまち霧散せしめるのだ。
従って、魔術的な伝達でなければ、ジ=ヨが半日とかからずに滅亡したことを藩王が知るのは、3週間後に命からがらケ=ジゥ候ミルラ=クスがオーギ=ベルスに逃げこんでくるのを待つしかない。
その前に、
「……陛下、陛下、陛下あああああ!!」
「今度はなんだ!!」
朝食中、宰相アイト=ズム=ガウが這うように内宮までやって来た。この様なことは、国家存亡の危機以外に、まず無いと云ってよい。
動揺する妃たちを手で制し、ドゲル=アラグは嫌な予感を感じつつ、
「申せ!」
「サ、サ、サ……!!」
腰を曲げたアイト=ズムが顔を真っ赤にし、喉を詰まらせるようにして言葉を絞り出す。サで始まる言葉で宰相がここまで動揺するのは、もう聴くまでもなく神の子しかない。
「神の子がどうした……!」
「神の子が……神の子が、王宮に御見えに!!」
藩王が、汁物を吹き出した。
「なんだと!!!!!?!?」
神の子が星隕の大神殿を出るのは、およそドゲル=アラグの記憶にあるかぎり、ただの一度も無い。
(そんなことが……!?)
妃のさし出す布もとらずに、ドゲル=アラグは凍りついた。
(ま……まさか、余がイジゲン魔王に寝返ろうとしたことを……!?)
この寒さの中で、全身に冷や汗が流れた。
(そうはさせじ、という事か……!? それとも、そこまでイジゲン魔王が脅威……ということか……!?)
判断がつかぬ。




