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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-4-9 次元マーカー防衛

 (まあ、ここはこんなもん・・・・・だ……。ガキに寄生しないと魔力も使えない生意気なリノ=メリカ=ジントめ、表に出てこずを得なくしてやるぞ……!)


 オネランノタル、魔力を集中させて火球を幾つも出現させた。ただの火球の場合もあるが、魔王や準魔王クラスともなると、独特の炎を使う。我々の世界で云うナパーム焼夷弾と似ており、ゲル状の燃料と共に粘っこい火炎を叩きつける。この世界の場合は、魔力が燃料となる。高濃度に圧縮された魔力と、自動的に魔力からエネルギーを奪って燃え続ける魔法の炎が交じったものだ。


 すなわち不燃物に付着してもいつまでも燃え続け、高熱と燃焼効果で攻撃対象を破壊するのである。


 人間が浴びたら、骨も残らず焼却されるだろう。

 「門の外に、バケモノがいる!」

 「戻れ、出るな!」


 「魔法の矢が降っているんだぞ!」

 「早く出ろ!!」

 「出たら殺されるぞ!!」


 北門前の狭い土地に数千人がひしめいて、阿鼻叫喚であった。

 その頭上から、複数の魔法の矢と炎の塊が容赦なく落ちる。

 「…………!!」


 人々が、悲鳴も無く轟音と共に吹き飛び、10メートルも噴き上がる業火に包まれた。


 瞬く間に、人間の群が炎の海に沈む。


 「ウヒョオオーーーーッホホッホオウ!! アッフェエえハハハハハハ!! やっぱり、やっぱり人間はよく燃えるなあああ!! 最高の燃料だよ! おっもしろおおおお!!」


 手を叩いて喜んだオネランノタル、ふと、城壁の上から遠くの丘のストラのほうを見やった。


 「…………」

 ややしばし、その方向を四つ目で見ていたが、


 (ま、いいか。仮にも魔王が、そこら・・・の魔族の刺客なんぞにられるわけもないし、もし間違ってられたら、それまでだ。エセ魔王だよ)


 気を取り直したオネランノタルが、街中の要所を潰すように、炎球を並べて落とし始める。絨毯爆撃だ。人間を1人残らず燃やし、ジ=ヨの街を丸ごと火に包むべく、ジワジワと爆撃で包囲を始めた。



 「やややっ、ナントカって街全体が、燃え上がり始めたでやんす!」

 大きく美しい翠の眼の上に手を当てて、プランタンタンが叫んだ。

 「あったかそうですね」


 それを見もせずに、ペートリューがひたすら吞み続ける。

 「オネランの旦那、ストラの旦那に負けず劣らずの強さでやんす!」

 「いや、ストラさんほどではないですよ。でも、ルーテルさんより強いかも」


 「ゲヒッシッシッッシシシシ~~……! ルーテルの旦那とオネランの旦那が鉢合わせした時が、楽しみでやんす!」


 意地悪そうに、プランタンタンが肩を揺らして笑った。


 そのプランタンタン達3人を、遥か上空より青白く光る強力な「魔法の矢」が一閃して襲いかかった。


 「……!!」


 視界が真っ白になり、次いで真っ赤になった。轟音と衝撃波が周囲をなぎ倒して、丘を舐めた。


 ひっくり返ったプランタンタンが目を回していると、ストラが空間バリアを展開し、プランタンタンとペートリューの合間に立っていた。


 「次元マーカー・・・・・・防衛・・のため、特別条件下においてプログラム修正モードを一時的に休止、限定的戦闘開始。非作戦時待機潜伏行動中自衛戦闘モード、レベル2を発動。発動許可時間は67秒。戦闘開始します」


 「だ、旦那あ……!」

 わけが分からず、プランタンタンがストラの足にしがみつく。

 「ストラさんの独り言・・・、久しぶりですね」

 ペートリューは、相変わらず座りこんで酒を傾けているだけだった。


 ストラが広域三次元レーダーにより、空間浅深度を航行中(あるいは飛行中)の物体に対し、空間迷彩ごと破壊する威力の対空レーザーを照射。爆発と共に、空間の裏側から鳥と生物を混ぜたような物体が飛び出てきた。


 生体ジェットにより飛行する、魔族の一種だった。従って、翼は固定翼だった。


 ストラを襲うのだから、魔王リノ=メリカ=ジントの放った刺客と観てよいだろう。


 「でっけえトリでやんす!!」


 眼をむいて、プランタンタンが叫んだ。距離にもよるが、目測で全長はおよそ20メートルはある。


 「いや、ゲドルでやんす!!」

 「魔物ですって……」


 生体ジェットで空を飛ぶと云っても、速度や飛行能力的には、第二次世界大戦で登場した最初期のジェット戦闘機程度だ。ストラにとっては、セミが飛んでいるより遅い。

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