第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-4-8 こんなマヌケな光景
特に歩兵部隊が、我先に竜門へ戻って城に入ろうとした。
そこへ、逃げ出した住民たちがかち合い、押し合いへし合いの混乱の場と化す。
怒号と悲鳴が飛び交い、パニックとなった人々が折り重なって、その上を人間を踏みつけて後ろから人々が門を抜けようとした矢先に、オネランノタルが門を爆撃して、大量の瓦礫が崩れ落ちた。
門から黒煙と炎が噴き上がるのを後ろ目に、ピオラと戦う第2陣の兵士達は、文字通り木端微塵に蹴散らされ、地面や城壁にペンキをぶちまけたように血糊をぶちまけていた。
なにせ、通常武器はまるで歯が立たないうえに、この部隊の魔術師の魔法や、一部の精鋭が持つ魔法の武器でもレベル不足で全くダメージを与えられないのだ。しかも、たまにクリーンヒットが出て、魔法の武器で傷をつけてもかすり傷や切り傷ていどであり、トロールの亜種ゆえに一瞬で治癒してしまう。
「援軍! 第3陣を呼べ! 第3陣はどこにいる!!」
「いや、退却だ、いったん引け!」
「逃げろ!!」
「どこに逃げるんだ!!」
軍団が総崩れとなって、四散した。
「門が崩れている!」
「毛長牛門はどうだ!」
「火の手が上がっているぞ!!」
「月門へ向かえ! 北側は無事だ!」
生き残った兵が、城壁沿いに北門へ向かう。
ちなみに第3陣は、城壁沿いを進んでいる途中に城内が襲われたのを確認し、急いで毛長牛門に戻り、オネランノタルが破壊する前に城内へ戻ることに成功していた。
が、皮肉なことに、逆にオネランノタルの攻撃をまともに食らう羽目になった。
まるで自律式の攻撃ドローンめいて、長さ1メートルほどもある短い翼を有した銀色に光る魔力の矢がそこかしこで火の手の上がる都市上空を飛び回り、一定以上(5~6人)が集まる人間を見つけるや、無差別に突っこんで爆発する。
その低い衝撃音が鳴るたびに、市民も兵士も恐慌を起こした。
城内へ戻った第3陣は西の毛長牛門から門前広場、街を東西南北に走る大通りかけて待機し、状況を把握するために市内各所へ偵察を出しているところを狙われ、特に集中攻撃を受けた。
(なんだよ、あいつら……わざわざ戻ってきたのかい?)
オネランノタルは呆れつつも、
(じゃあ、遠慮はいらないな!)
容赦なく魔法の矢を放つ。
音を立てて何かが飛来し、兵士が吹っ飛ぶので、将軍も隊長たちも何が何だか分からなかった。彼らや付随する魔術師部隊の常識では、こんな巨大な魔法の矢は聴いたことも無い。
従って、どのような攻撃を受けているのか、皆目見当がつかず、ただわめきながら一方的に殺戮されるがままだった。
まさに、人間に巣を崩されたアリが、ただ右往左往するに等しい。
その混乱の中でも、オネランノタルは微妙に爆撃を操り、人々を誘導した。怪鳥の大群めいて都市の上空は数十もの巨大な魔法の矢で埋めつくされるに至り、人々は嫌でも爆撃と火災の無い方向へ進む。
それが、北門……月門の方角であった。
東西の毛長牛門、竜門、南の太陽門が潰され、ただでさえ都市から脱出するには月門へ逃れるしかない。
そこへ、爆撃と火の回りが北の方角だけ緩いとなれば、水が低地へ流れ集まるように自然に避難民の列は北側へ集中する。
もう兵士も市民も役人も貴族も下民も奴隷も乞食も区別無く、メチャクチャな混乱の行列となって通りを人間の川とせしめた。
そこへ背後より爆音が迫ってくるとなれば、嫌でも将棋倒しに圧殺され、その上を人が人を踏みつけながら門へ殺到する。
正門の1つである月門は、幅10メートルはあるが、他の門に比べれば小さい。
そこがギュウギュウに詰まり、門を抜けるだけで死傷者が続出した。
その、門を抜けた先に待ち構えていたものは……。
「うぅおぉおおるぁららああああああーーーーッ!!」
容赦なく、ピオラが脱出した市民を打ち殺してゆく。
「アハーッハハハハハ! イヒーーーッヒヒヒヒヒ!!」
城壁の上で、オネランノタルが腹を抱えて爆笑した。
「まさに! まさにアリクイに喰われるために、巣からゾロゾロ出てくるアリじゃあないか! 久しぶりに、こんなマヌケな光景を見せてもらったよ! ウヒャハハハハ、アヒィーーッヒャハハハハハァ!!」
だが、すぐに笑顔を消し、四つ目を風に細める。




