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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-4-7 ジ=ヨ炎上

 (どーれどれ……他の軍も東西の門から出たようだね。城壁ぞいを移動し……ピオラを探しているな……。おっと? 都市の地下道を進んでいる人間もいる……侯爵め、早々に逃げだしたのか? 賢明だよ)


 オネランノタル、魔力を物質化した漆黒でドロドロのローブを吹き飛ばし、美しい幾何学的な文様の入ったローブ姿となり、その黄色地に黒と碧の線文様の入った素肌に岩海苔めいたゴワゴワの黒髪、黒と碧の四つ目に少女のような華奢な顔立ちを冷えて乾いた初冬の空気に曝した。


 物陰や家の中より魔術を使う不審者を隠れ観ていた何人かの市民が、そのおぞましく、禍禍しいまでに美しい姿に、悲鳴を上げた。


 その悲鳴を合図として、オネランノタルが都市破壊戦を開始する。


 能力として魔力に潜むエネルギーを解放させ、轟音と共に巨大な火柱が立ち上がった。


 同時に火炎と衝撃波が周囲を舐め、石積みと土壁の建物を吹き飛ばし、塔を瓦解せしめた。


 まさに、シンバルベリルが暴発したかのようだった。


 実際、青色のシンバルベリル……リーストーンのタッソを焼きつくした、あの火柱ほどの破壊力は、余裕であった。


 布地や木製の建具、あるいは屋根材に引火して、ジ=ヨの西側で猛烈な火災が発生。黒煙が寒風に棚引いた。


 衝撃と火災、喧騒に驚いた市民が、我先に家を飛び出て逃げ惑い始めた。


 既に屋敷に侯爵はおらず、誰も何も指示命令しなかったので、市民はパニックとなって、ただ家財をもって門に殺到した。


 せめて軍がいれば、少しは騒擾そうじょうも収まったかもしれなかったが、全軍と全将軍が出陣しており、何十人か残った警備兵だけでは何もできなかった。


 「アヒャヒャヒャヒャ! アーッハハハハハッハア!!」


 オネランノタルは子供がアリの巣を壊して遊ぶように、通りを押し合いへし合いする市民に向けて平気で魔法の矢を放ち、人々が殺到して群衆雪崩、将棋倒しになる毛長牛ゲルク門とゲドル門の門前広場を火球で攻撃、爆轟でぶっ飛ばした上に瓦礫の雨を降らせた。


 「うっひゃひゃあーーーッ、血の雨とはこのことだよ!」

 瓦礫、砂塵と肉片が入り混じって飛び散り、真っ赤な雨が降り注いだ。

 「もっと降れ! もっと降れ! 雨雨降れ降れ、血の雨よ降れえーっ!」


 わざと威力を弱めた魔法の矢を機関銃のようにパニックとなる人々に浴びせ、肉片を巻き上げて飛び散らせた。


 さらに、掲げた右手の指先より全方位に高出力高熱線を放ち、石壁、石垣すら溶融させ、大爆発を起こす。


 30分も経たないうちに、ジ=ヨは街自体が燃料と化したように、巨大な炎に包まれて燃え上がっていた。


 東西の門より出撃した第2陣と第3陣の軍勢が、衝撃や爆発音、地鳴りに驚いて、城壁ぎわで動揺し、動きを止めた。


 「な……なんだ!?」

 「何の音だ!?」

 「将軍殿おおーーッ! 城内より、煙があああーッ!」


 第2陣を率いるコアル=ネツト将軍が毛長牛ゲルクの上で黒髭をゆがめ、歯ぎしりしながら、


 「さては、あの白鬼の女は陽動かあ!! 魔王めが!! 城内へ戻れ、戻れえええーッ!」


 その将軍めがけて、投擲されたピオラの巨大な多刃斧が、回転しながら唸りをあげて襲いかかった。


 名も無き甲羅のゲドルの首を、一撃で落とす威力だ。


 毛長牛ゲルクが胴斬りで真っ二つとなり、将軍は五体バラバラになって冷たい空気と地面にぶちまけられた。高速回転する巨大斧が、将軍の近くにいたもう1人を肩口から半身を切り裂いて砕き、さらにその後ろにいた1人の脳天を破壊して空中に浮き上がってブーメランのように戻ってゆく。


 「……っ」

 「将軍殿おおおおおおお!!」

 兵たちが驚き、恐れおののいて固まった。

 「あれを見ろお!」


 兵達が見やると、50メートルほど先の城壁際に、猛牛めいた白い息を吐いた血まみれのピオラが、真紅の眼で軍勢を睨みつけていた。回転しながら飛ぶ戦斧がブーメランのように正確にピオラめがけて戻って、その手に収まった。あれほどの重量飛来物を片手で握り止めるピオラに、兵たちが震え上がった。


 「……おっ、臆するなあああ!! 第1陣と将軍殿の仇を取れええ!!」


 中隊長の1人である副将が叫び、自らピオラめがけて毛長牛ゲルクを走らせ、刀を抜いて突進した。


 それに続いた軍勢は、しかし、全体の半分もいなかった。

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