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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-4-1 イジゲン魔王の使者

 「如何いたしましょう!」

 「…………!!」

 ミルラ、やや逡巡していたが、

 「と……通せ!」


 謁見の間に行くと、既に使者は通されて片膝を着いて控えていた。

 ギョッとして、ミルラがその人物を凝視した。

 (ひ……人か……!?)


 真っ黒いズダボロの長ローブを身にまとい、顔も大きなフードの奥の暗黒に隠れてよく分からぬ。まるで、大量の墨汁を頭からひっかぶった・・・・・・ようだった。全身から滲み出るような粘度の高い濃厚な魔力に覆われ、その魔力がずぶ濡れの身体から滴る重油のようにボタボタと床に落ちていた。


 「うぅっ……!」


 ミルラと共に謁見の間に現れた候家の専属魔術師のルガペ=ナルが、吐き気を覚えて口を押さえた。


 「お、面を上げよ」

 「…………」


 正面の席についたミルラの声に、使者が、ゆっくりと顔を上げた。が、フードに隠れて全く見えなかった。


 「無礼者が、フードをとらぬか!」

 「本当にとってよろしいので?」

 人間の声とは思えぬ、合成音のような嗄れて不気味な声だった。

 「い、いや……とらんでいい」


 じっさい、人間ではないのだろう。ミルラは、とっとと話を聞いて追い返そうと決めた。


 「魔王……ナニ魔王といったか? なんという号を?」

 「イジゲン魔王聖下にて」

 「イジ……ゲ……?」

 意味が分からなかったが、ミルラは聴こうとも思わなかった。

 「魔王が何用だ。なぜ、我が国を侵略する。目的はなんだ」


 「イジゲン魔王様は、救世のため、世界の魔王を全て討ち倒すべく、旅を続けておられます。それは、この世の運命そして宿命にて。既に、3人の魔王を倒されました」


 「魔王退治など、勝手に余所ヨソでやっておれ! 我が国に、魔王などおらんぞ!!」


 「そう思っているのは、貴方達だけ……」

 「なにぃ……!?」


 「イジゲン魔王様の大御業おみわざを侵略と申されるのなら、かつて大魔神メシャルナー……この国では、タケミナカトル大明神が行った神の御業も、旧世界にとっては侵略に御座った」


 「な……なんだと!?」

 「貴方達が滅ぶのは、千年後の民のためで御座る」

 「何を云っているのか、まったくわからん」


 「理解する必要は御座らぬ」

 「なにいッ……!!」

 ミルラの眼が吊り上がった。


 「では、ただ、黙って滅べと云うのか!!」

 「しかり」

 「ふざけ……!!」


 この者の首を刎ねよ!! と叫ぼうとして、ミルラはこらえた。どうせ人間ではない。


 「さようなこと、我が国にあっては、神の子サマタイが御許しなられるはずがない」

 「では、神の子サマタイとやらも滅ぼすのみに御座る」

 「神の子サマタイを滅ぼすだと!!」


 「然り」

 「う……ぬぬ……ぐ……!!」

 怒りと衝撃で、ミルラは震えだした。


 「しかし……イジゲン魔王様に帰依し、ヴィヒヴァルンと共に歩くのならば、滅亡は免れることとなりましょう」


 「な……!!」

 ミルラ、絶句して息をのんだ。

 「わ……わ、我が命惜しさに、藩王と神の子サマタイを裏切れというのか!!!!」


 「然り」

 「殺せ!!」


 ミルラが血走った眼で立ち上がり、使者を指さしたので、10人ほどの警備兵がいっせいに取り囲んでコサック刀めいた大型の片手刀を次々に振りかざし、叩きつけた。


 まさにボロ雑巾か案山子のようにズダズダに叩き切られ、使者が床に倒れ伏したが、まったく血が出ていなかった。


 それどころか、

 「それが答え……ケ=ジゥ候……それが答えなんだね……」

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