第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-3-6 嬉しさが隠しきれてない
「まして私は、エルンスト大公に負けず劣らずの魔法……厳密には、魔法じゃないけど……を使って見せるよ。大公と合流したら、私と大公だけでこの国を滅ぼしてやるさ……。もっとも、魔王は相手にしないけどねぇー~」
「そうなんでやんすか?」
「流石に魔王は、こっちが死ぬか大怪我だから。あいつら、どいつもこいつも扱う魔力量がケタ違いだからね。いちばん若くて弱っちいレミンハウエルですら、私の数倍の魔力を扱えたんだよ」
「はあ……」
「さて……」
オネランノタルが、まるで空間タブレット画面のように、空中に地図を出す。正直、オネランノタル以外の全員は作戦なんかどうでも良かったので、オネランノタルの独り言に近い。
「ここから攻めるとすれば、ガフ=シュ=イン西部最大の都市、ケ=ジゥ州の都ジ=ヨになるだろうね。ジ=ヨ攻防戦というわけさ! ケ=ジゥ候ミルラ=クスが、どこまで私らのことを知らされているかは知らないけど……まともにいけば半日……いや、数刻で壊滅せしめられるよ。しかし、それでは面白くないよねー~。少しでも高揚感を長く味わいたいからさ……。エルンスト大公と合流するのは、ここだな。異次元魔王ストラ氏……もし、また大公と連絡をとった際は、ここで合流するよう、伝えておいてほしいんだけど」
オネランノタルがそう云ってストラを見やったが、ストラは座の端に正座で坐ったまま小首を傾げて明後日の方を向き、両手を掲げて何を妙なポーズをずっととっていたので、オネランノタルが再び地図に四つの眼を戻して、
「とっとと攻めかかりたいので、明日一番で向かう。人間どもで云う、転送魔法さ。疾きこと風の如しだよ。ウフフッ……クッククク……イッヒッヒヒ……!!」
プランタンタンはそんなオネランノタルをたき火越しに見やって、
(こいつ、本当の本当にこれまで相当ヒマだったんでやんすね……ストラの旦那と出会って、もの凄え勢いでヒマつぶしができて、嬉しさが隠しきれてないでやんす……)
つまり、オネランノタルも、ストラと出会って人生ならぬ魔族生がガラリと変わった1人なのだ。
もっとも、ストラがこの世界に流れ着いて、人生が変わった者など、千万単位でいる。国や街が、まるごと幾つも滅んでいるのだから。
(ゲェッシシッシッシッシッシッシシシ……!! やっぱり、旦那といっとう最初に出会ったあっしは、とんでもねえほどツイてるんでやんす……旦那に着いて行きゃあ、こら、どこまで行けるものか、楽しみでしかたねえでやんす……)
プランタンタンとオネランノタルが2人してニヤニヤ笑いだし、ペートリューは無表情で黙々と酒を飲み続け、ピオラもひたすら肉を貪り食っていた。
翌日。
「おい起きてよ、プランタンタン。出発するよ」
「へ、へえっ!」
まだ奴隷時代の習慣が抜けず、起きろと云われたら即座に起きるプランタンタン、まだ大イビキでピオラとペートリューが寝こけているので、少し安堵しつつ、
「今朝も、てえそう冷えやんすね! オネランの旦那、いつもこんな御早く起きるんで?」
「魔族は、眠らないんだ。寝るフリをするやつもいるけど」
「そうなんで……」
することが無いのに、寝ることもできないとは……。プランタンタンは、初めて魔族に少し同情した。
(そらあ、ストラの旦那みてえないいヒマつぶしができたら、喜びもするでやんす)
そう思い、熾火に小枝を突き刺して火を起こした。乾燥した枯れ木は、すぐに火がつく。
オネランノタルが出した肉を用意していると、すぐにピオラが起きた。
「なんだあ、もうアサメシかあ!?」
「たらふく食っておいてよ。大将軍のお前しか、兵がいないんだからさ」
「そんなもん、魔王軍でもなんでもねえよお!」
笑いながら、起き抜けにピオラも器用に干し竜肉に枝串を突き刺し、プランタンタンの起こした火にかける。水は、近くの沢水から竜革の水筒へ汲み置いたものを、木のカップで飲んだ。
「ペートリューさん、ほれ、起きなせえ。ナントカっちゅう街を攻め滅ぼしに出発するでやんすよ」
いつもならグダグダといつまでも起きないペートリューだったが、その日は機械のスイッチでも入れたようにすぐさま起き上がって、酒ではなく水を飲んだのでプランタンタンは驚いた。
「え、ペートリューさん、どこか具合でも悪いんで?」
「いやっ……」
ペートリューの眼が、淀みながらも鋭い光をはなっている。
「……ストラさんが、いつまでああなのかな……と思って……」
「?」
プランタンタンは、ペートリューの云っている意味が分からなかった。




