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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-3-5 一時的に立ち上がる

 ルートヴァンも、想像より遥かに大きい威力に少なからず驚いていた。まさか、これほど・・・・とは……という思いだ。衝撃波が数キロメートルほど離れている王都を直撃し、一部の建物を破壊した。


 そのど真ん中でまったくの無傷だったのだから、ルートヴァンの魔力直接行使による防御術も褒めてしかるべきだろう。


 2人の周囲はまだ轟々と炎が吹き上がり、渦巻き、逆巻いており、氷点下の大地を灼熱の風で覆っているので、まだ魔力のバリアを解除するわけにはゆかない。


 「ルーテルさん、ルーテルさん、聴こえますか、ストラです」


 そんなルートヴァンに、いきなりストラから広域空間通信が来たので、ルートヴァンも跳び上がって驚き、


 「……あ、ハハッ、聖下の忠実なる下僕にして使徒ルートヴァン、ここに! たいへんよく聴こえます、聖下!! 見事魔王ロンボーンを倒し、御無事にガフ=シュ=インに到着されたのですね!?」


 「無事に、というわけではありません。私は自律行動自我プログラムがまだ不安定で、意識を保っていられる時間も短いです。いま、ルーテルさんが私の分離した構造体を使用したので、同期して強制停止以前の自我プログラムが限定的に立ち上がりました。既に立ち上がっている自我プログラムは仮想で、他のプログラムの保護及び修復を優先にして動いています。魔力子マギコリノ及び次元振動効果による複合ダメージは深刻でしたが、少しずつ回復しつつあります。仮想自我は、しばらくテトラパウケナティス構造体と各種破損したプログラムを保護・修復を優先して稼動するでしょう。では、そろそろ自我プログラムが再びスリープ状態に入ります。なお、プランタンタンとペートリューは、無事に保護しています。他に、協力してくれる仲間も増えました。トライレン・トロールという未知種族と、強力な魔族です。これから王都方面へ向かい、当該土地にいる魔王へ攻撃を開始します。どこか、中間地点で合流しましょう。以上」


 空間通信が、とぎれた。一気にそう云われてルートヴァン、

 「え……ええーーーーと……えー……と、云うことは……? ? ? ……」

 「な、なんだよ、ストラさんから魔法の連絡か!?」


 「そう……なんだけど、ちょっと様子がおかしい」

 「様子? プランタンタンとペートリューは!?」

 「プランちゃんとペーちゃんは、無事のようだ」


 フューヴァが、ホッと息をついた。

 「それに、なんとかというトロールと、魔族が仲間になったらしい」

 「はああ!? トロールと魔族が仲間に!? どうして!?」


 「分からないよ」

 もう笑うしかなく、引きつった苦笑でルートヴァンが肩をすくめた。

 「とにかく、西に向かおう。スーちゃん方と合流しなくては」


 「飛んで行くのか?」

 ルートヴァンが、ニヤッと笑い、

 「当たり前だろ?」

 もう、炎の海の中より、一条の光が夜空に輝いて西に向かった。

 


 「ストラの旦那、どうしやした?」


 ルートヴァンへの広域空間通信を終えたストラは、もう仮想自我プログラムに変わっていた。ほんの10数秒だけ、この世界で再起動してからの自我が覚醒したのを、プランタンタンは見逃さなかった。もっとも、この世界へ・・・・・来る前の・・・・自我・・は、完全に失われている。


 いま、5人は彼方の閃光からそれほど遠くもないダジオン山脈の中腹で休憩しつつ、オネランノタルが作戦を練っていたところだ。


 「こんなところでモタモタして、魔王がまたあの魔竜パガンゲドルを出してきたらどうするんだあ?」


 などとピオラが不平を垂れたが、

 「あんなもの、私の敵じゃないよ」

 オネランノタルが一蹴した。


 加えて、魔術で食糧やペートリューの酒を出すのだから、ピオラが狩りをする必要もない。


 しかし、いかに魔術とは云え、この世界の魔法理論でも、けして無から有は生まれない。オネランノタルはどうやって肉や酒を出しているかというと、


 「……ストラさんの魔法の宝物庫と、同じですよ……肉も痛まないような魔術の倉庫に保存しておいて、オネランノタルさんが自在にそこから出しているんです」


 ひたすらガフ=シュ=インの焼酎をあおっているペートリューが、ボソリとつぶやく。オネランノタルが、ニヤニヤしてうなずき、


 「こいつ、面白いね!」

 ピオラにそう同意を求めた。ピオラはよく分からず、無視して炙り肉を食い続けた。

 「さあて……ストラ氏が完調・・するまでは、私とピオラで藩王国を攻めるよ」


 「たった2人で、できるのかよお?」

 「おまえなんか、1人で人間の1,000人やそこらを殺せるだろうよ」

 「そんなことはねえよお」


 そう云って笑ったピオラの、まんざら・・・・でもない笑みを、プランタンタンは見逃さなかった。

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