第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-3-3 軍団のど真ん中に
「ルーテルさんでも、自信が無いなんてあるのかよ」
フューヴァ、これまで何回も同じようなことを云った気がするが、とにかくルートヴァンにはそういうイメージしか無いのだった。
「だから、僕は万能じゃないって……。少し使って連絡してみたところでは、『力』が足りなかったのか……応答は無かった。かと云って大規模に開放して、スーちゃんの『力』が暴走し、僕らが死んだら本末転倒だろ?」
「まあな。でも、だからってよ……」」
「分かってる。なんとかして見せるさ」
ルートヴァンが、フューヴァへ片目をつむって見せた。
「まあ、頼りにしてるぜ。いまはよ、ルーテルさんしか頼るヤツいねえんだしな」
「じゃあ、ちょっと……罠に引っかかって、王都から出てみようか。街中で使うのは、まだ気が引ける。たとえ、ガフ=シュ=インがヴィヒヴァルンに宣戦を布告したとしてもね」
どんだけすげえ力なんだよ、その羽飾り……と思いつつ、フューヴァがうなずいた。
「で、走って逃げるの?」
「まさか、疲れるだろ。いつものやつさ」
云うが、ルートヴァンがフューヴァを抱き寄せ、飛翔魔術で王都オーギ=ベルスの上空に舞った。人口約80万、北方辺境最大の砂漠都市であり、交易都市でもある。ウルゲリアやヴィヒヴァルンの下手な都市よりはるかに規模が大きく、絢爛豪華。帝国民が辺境、蛮地と蔑んでいるガフ=シュ=インの確かで豊かな国力と文化の象徴だった。深夜だというのに明かりがあふれ、この寒さの中にも人々が行き交っている。また、近衛兵が縦横に2人を捜索する松明や照明魔法の列も、眼下に丸見えだった。
フューヴァは素直にすげえな、と思ったし、ルートヴァンは、
「ここも、魔王の戦いで遠からず灰燼に帰すとは、かわいそうに……」
と同情した。
その、王都上空を透明化魔術のかかったまま高速で飛翔する2人を、対空攻撃用ロケットランチャーめいて、どこからともなく魔力の塊が高速で飛んで打ち据えた。
「オワァッ!!」
「なん……!!」
衝撃にフューヴァが叫び、まったく気づかなかったルートヴァンも驚いたが、何より驚いたのは、そのまま魔法効果が格段に下がり、墜落するように高度を下げ始めたことだった。
「お……落ちるぜ!」
「なにを……!」
ゲベロ島のように、周囲空間の魔力濃度が下がったわけではない。これは純粋に、対抗魔術の一種で、魔法効果を格段に低下させるものだ。
で、あれば対処法も変わる。
これが単発の魔法であれば再度飛翔呪文を行使するし、効果が持続する魔法であればさらに対抗呪文で効果を打ち消す。
が、そのどちらでもなかった。
そもそも、効果に術式が動いた痕跡が無い。
(つまり、魔力の直接行使……! これほどの高位魔術師が、いまさら出てきたとは思えない……。と、いうことは……!)
魔法ではなく、魔族による能力攻撃だ。
「そういえば、王都の番人も魔族だったな!」
他にも魔王の手下の魔族がいるという可能性を考慮しなかった自分に立腹しつつ、ルートヴァンも魔力を直接行使。効果に変換せず、魔力をそのまま地面にぶつけてクッションにし、何度か跳ねあがって、どうにか冷たい地面に転がった。
「さ、さすがルーテルさんだぜ、よく無事に下りたな!」
眼を回しつつ、フューヴァが急いで起き上がって身構える。
同時に、漆黒の荒野に煌々と照明魔術が焚かれた。
街道より外れた、王都郊外の荒野……既に、2人の周囲には王都中央方面軍2万5,000が展開していた。
いや、軍団のど真ん中に、意図的に落とされたというべきか。その距離は、100メートルあるか無いかという近距離だ。
「フ……単純だが効果的だ。この規模の軍団は、確かにあのゴチャゴチャした都市内では、自在に動くのは難しいだろう」
「冷静に分析してる場合かよ! ルーテルさん、見ろや……!」
フューヴァに云われ、見やると半獣半人のバケモノが5体ほど、部隊の前にそろっている。我々で云うケンタウロスのような、毛長牛の身体に屈強な人間の上半身がくっついたような怪物だ。ただし、全身が真っ黒であった。
「あれが魔族か……名も知らぬ魔王の手下だな」
「ルーテルさん、魔法は大丈夫か?」
「うん……」




