第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-3-2 ストラの羽飾り
「先日、陛下が神の子に御会いになったさいに、な……」
それに関しては、リザキや王太子ガミン=ドゲルであっても、深くは聴かない習わしになっている。近衛将軍たるレザル=ドキだけが、藩王につき従って神殿まで行くことができる。
「なんでもいい。いまは、神の子の御託宣の通り、ヴィヒヴァルンと戦い、勝利して神聖帝国をガフ=シュ=インと陛下の治める地にすることだけを考える」
「まあ、な」
「そのために、わざわざ大元帥自ら、本軍を指揮するのだ!!」
「その通りだ」
「なんにせよ、ネズミを早く王都より追い出してもらわないことには……な」
「分かっている!」
レザル=ドキが意識を切り替え、ルートヴァン包囲作戦の為、リザキの部屋を出た。
「王都から追い出すだけでいい! あらゆる路地をつぶせ! 戒厳令を発する! 魔法探索を急げ!」
近衛将軍直々の号令一下、近衛兵8,000が総出でルートヴァンとフューヴァを探索した。魔法合戦ではルートヴァンの足元にも及ばないとはいえ、腐っても宮廷魔術師だ。高度な探知魔法で、的確にルートヴァンの位置を掴んだ。
「ふうん……作戦を変えてきたな」
冷え切った夜の空気に、ルートヴァンが杖を掲げて敵の動きを掴みながらつぶやいた。
2人とも、姿隠し術で見えなくなっているが、軍勢がそんな2人を素早く包囲している。
「どういうことだよ?」
フューヴァが、周囲の気配を探りながら云う。吐きつける白い息ごと、姿隠し術は隠してしまう。
「どうも、王都から追い出しにかかっているようだ」
「追い出しねえ……罠なんだろうな」
「それ以外にないよね」
「咬み破るのかよ? 罠を」
「破るのは容易さ。問題はその後、どうするか、だよ」
「そんなもん、ストラさんと合流するんだろ?」
「それが……まだ、スーちゃんと連絡がとれてないんだ」
「ハアア!?」
思わず声を荒げ、見えないながらもフューヴァが肩をすくめ、口で手をおさえる。
ちなみに、2人は、お互いに見えている。そういう魔術だ。
「てめえ、いままでナニやってたんだよ!! てめえの仕事だろ!!」
フューヴァの囁きながらも怒鳴る声に「相変わらず、厳しいねえ……」と思いつつ、ルートヴァン、
「コレで、何度か通信を試したんだけど……応答が無いんだよ」
「ナニ云ってやがんだ、無いなら無いなりに、なんか方法を考えるのがルーテルさんの役割じゃねえか!」
「云うねえ……!」
むしろ楽しそうにルートヴァン、
「このスーちゃんの羽飾りの使い方を、ずっと探っていたんだけど……思っていたより、かなり危険な代物さ」
「危険? それが?」
胡散臭げに、フューヴァが眉をひそめた。
「え、そもそも、それ、なんなの? 魔法の道具か何かじゃねえの?」
「もちろん、魔法の道具さ」
ルートヴァンが羽ペンでも回すように、その鈍い銀色に輝く羽飾りを指で弄んだ。
「ただし、スーちゃんの魔法の道具だ」
フューヴァが、文字通り切れ味の鋭い刃物のような、真剣な眼つきとなってルートヴァンの手の羽飾りを凝視した。その視線に、ルートヴァンは満足した。
「ストラさんの魔法って……」
「そう。聖下の魔法は、この世界の魔法とは異なる。魔力を全く使わないのは、フューちゃんも知っているだろう? だから、この聖下の魔法の道具を、僕がどう使えばいいのか……皆目、分からないんだ」
「……」
フューヴァが、刃物めいた視線のままルートヴァンを見上げた。
「いまさらてめえ、マジで云ってんのか……」
ルートヴァン、その視線にゾクゾクしつつ、
「まあまあ……スーちゃんは、僕ならどうとでもなるっておっしゃったのも確かさ。使いようはあるんだ……。ただ……ね」
「ただ、なんだよ。勿体ぶってる時間が、いまあるのかよ?」
「これは、魔力ではないけど、凄まじい『力』の集合体だ。その『力』を解放する方法は、なんとなく分かった。魔術式でね。まるで、燧石で発火させるように、この羽飾りを発火させることはできる。その『力』で敵を薙ぎ倒せるだろうし、スーちゃんと連絡もとれるだろう。……問題は、その制御がねえ、ちょっと自信が無いんだ」




