第2章「はきだめ」 3-2 格闘魔法
「ウオオ!」
ゴハールがストラを力任せに押し退け、距離をとる。
(光子振動効果を相殺した……! どうやって……!)
未知法則によるため、にわかに予測できなかった。
(一定の魔力子パターン構造が、空間をゆがめている!? 物理的な防護効果ではない……)
再び、ゴハールが突進した。
それへ、ストラがプラズマ炎の塊を左手に出し、叩きつけた。
歓声や驚声と共に、ゴハールが猛烈な炎に包まれる。
「すっ……スゴイ! 爆炎魔法を、あんな瞬時に……!!」
よく分からないが、魔法使いのペートリューが凄いというのだから凄いのだろう。プランタンタンとフューヴァが、心臓を高鳴らせてステージ上の炎を見やる。
まるで焼夷弾……ナパーム弾をくらったかのような粘りつく炎の塊の中から、その炎を弾いて、ゴハールが飛び出る。
(ロータス効果が水を弾くように、炎と熱を弾いている……)
やはり、魔力による独特のパターン構造がキモか。
「……じゃあ、物理的に粉砕する!!」
ストラがサッと光子剣を納刀するや、迫り来るゴハールめがけ、素手で殴りかかった。
「!?」
ゴハールを含め、観客やプランタンタン達の誰もが、ストラがトチ狂ったと思った。
「イェアアア!!」
珍しくストラが雄叫びを発し、その右拳にパワーを集中させる。
ゴハールが楯を前にかざしつつ、右手の剣を振り上げた。
そこへストラが間合いを盗みつつ先先で突っこんで懐に入り、左腕を、ゴハールの振り下ろされる右腕に下から擦り上げるようにひたりと当てて威力を殺し、がら空きの兜の顎めがけて右フックをぶち当てる。
凄い音がして、ゴハールの巨体が浮き上がった。兜がひしゃげて脱げかけ、浮き上がったところをストラが強烈な左の回し蹴りをその胴体めがけて叩きつける。
衝撃で腰当てが外れ、ゴハールはもんどりうって石畳の床に転がった。
「すっ、素手でぇえエエッ!?」
フューヴァが思わず、素っ頓狂な声を発した。
「まっ、まま、魔力を攻撃力に変換してる!?」
ペートリューの叫びに、プランタンタン、
「なんでやんす、そりゃあ!?」
「かっ、かか、格闘魔法です!! でっ、でも……じっ、実際に……使える……人が……いるなんて……!!」
「ひょええ~~~、旦那は、なんでもありでやんす……!」
云いつつ、プランタンタンは賭け率を確認するのを忘れぬ。
(旦那が11倍……相手のカラスが9倍でやんす……!!)
アッと云う間に、実力伯仲となった。
思っている間に、ストラが走りこんでジャンプから膝落としをお見舞い。膝を壊しかねない大技だが、とうぜん、魔力により強化されていると考えてよいだろう。(違うけども。)
と、仰向けに転がっていたゴハールが背筋を使ってひと跳びに起きあがり、迎撃体制に入った。そのまま空中のストラに、大降りでシールドをぶち当てた。
今度はストラがフッ飛ばされ、床を舐める……はずだったが、ストラは当てられたシールドの縁を両手で掴んで、勢いを利用して着地するやシールドを捻りこみ、ゴハールの左腕を捩じって再び横倒しにした。
凄まじい歓声に、会場が揺らぐ。
さらに、ストラが寝業に持ちこむ。
いや、これは寝業などという生易しいものではない。
観客やゴハールはストラが強大な魔力で純粋にパワーアップしていると思っていたが、そうではない。ストラは元来のアホみたいな力を剥き出しにして、馬乗りになったゴハールの鎧を、素手で破壊し始めた。獲物の小鳥を捕らえた猛禽が嘴で羽をむしるように、ストラが漆黒の鎧の部品を一つ一つ、強引に引きちぎって剥いで行く。
「ええええええ……!」
みな、黒騎士の鎧が超重量級だと思いこんでいて、それをバギバギと素手で破壊し、剥がしてゆくストラの魔力転換の凄さにド肝を抜かれていた。
「この……!!」
兜の覆いも半分を引き剥がされたゴハール、褐色の肌と黒い片眼を覗かせ、無表情のストラを睨みつける。柔軟で力強い体幹を活かし、シールドと剣の鍔をボゴボゴに叩きつけてストラの攻撃を妨害しつつ、腹筋を使って両脚を天上に向けて持ち上げるや、一気にストラの首にひっかけた。そのまま身体を捻り、カニ挟みでストラを床に倒す。
「ウオオオああ!!」
今度はゴハールが雄叫びを揚げ、シールドの下にストラを押しつけて、体重を乗せた。
そして一気にシールドを離し、同時に魔力を溜めた剣を叩きつける。
凄まじい爆発が起こって、相手を爆破する剣だ!




