第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-2-5 神聖帝国の役目
「ホーランコル」
「ここに!」
「キレットとネルベェーンを頼んだぞ」
「御任せを!」
「それに、シーキも、かなりも腕前と聞く」
「いえいえ……殿下、身共は」
「1人で逃げようったって、もう遅いぞ、シーキよ。ガフ=シュ=インからは、我らの仲間とみなされているだろう」
「御言葉ながら、殿下。我が主君がガフ=シュ=インに味方し、身共にガフ=シュ=インへ投降を御命じになった場合は……」
「その場合は、僕か聖下がお前を殺すだけだ」
「……で、しょうな」
「死にたくなくば、チィコーザ王を説得しろ。いいな」
余りに問答無用なので、シーキが口をひん曲げて肩をすくめ、ホーランコルを見やった。
「では、そういう……おっと、来客だ。こっちは、先に始めているぞ……!」
不敵な笑いがし、伝達魔法の小竜が走り去ってしまった。
「なんという御方だ」
呆れかえって、シーキが半笑いで嘆息した。
「シーキ殿、さっそく、チィコーザ王に御報告を」
キレットにそう云われたが、シーキ、
「御報告ったって、私は魔法使いじゃない。王都に入ってからになりますよ」
「伝達の魔法なら、私かネルベェーンが」
「私が魔法を使ったら、逆に怪しまれるでしょうよ……」
「では、どうすれば?」
「王都までは、共闘ということで。王都で別れます。チィコーザがどう出るかは、私の判断の及ぶところではありません」
「私どもと共闘して、果たしてガフ=シュ=インが見逃してくれますかね?」
ホーランコルの言葉に、流石のシーキも顔をゆがめた。
「分かりません。しかし、こんなところで1人になっても、死んでしまいます……」
「御任せします」
「それに、残りの代金をもらわなくては!」
「そうですね」
キレットが笑いながらそう答え、いったん自分の天幕へ戻った。一息つき、ホーランコルとシーキもまずは休む。
翌日も、旅自体は何の変哲も無い、これまで通りの荒涼としたものだった。
(しかし、このままでは、帝国構成国同士で内戦だ……。既に、マンシューアルが周辺諸国に小規模な戦闘を仕掛けて皇帝の仲介を得、領地を掠め取るという乱暴なことをしていると云うが……それとは、規模も意味合いも異なるだろう。あの老獪王が宣戦を受けて立ち、なおかつそれを利用して……)
そこまで考えをまとめて、ホーランコル、事の大きさと恐ろしさに、目をつむって身震いした。
(それを利用して、異次元魔王様の名のもとに、帝国を割る征服戦争を起こすのだ……!!)
どれほどの人が死ぬのか、想像もつかなかった。が、
(殿下の話だと、どうせ、ウルゲリアの滅亡によりこの冬は万単位で人が餓え死ぬ……。神聖帝国は、役目を終えて滅ぶ……。全ては、異次元魔王様がこの世界に流れついてより、運命は決まっているのだ……!)
「……さん、ホーランコルさん!」
キレットの声に、ホーランコルが我に返った。
街道のやや後ろにいたキレットが、すぐ横にいた。
「ど、どうしました!」
「あれを……!」
毛長牛を止め、キレットの指さした地平線を見やって、ホーランコルが、
「いよいよ来ましたね! 盗賊か!? それとも……」
「盗賊にしては数が多いし、武装が全然違います! 正規兵ですよ!」
少し先を行くシーキも振り返って、叫んだ。
「我々を捕らえようと!?」
「殿下の話だと、そう考えるのが妥当でしょう!」
「どうします!? 逃げますか!?」
「逃げるしかないですが……こんな場所で、ただ逃げてもいずれ追いつかれます。王都に入っても同じでしょう。いったん、あえて掴まるのも手ですが……」
なるほど、とホーランコルは思った。無くはない手だ。
「だが、命令が捕縛ではなく殺害だった場合、黙って掴まるのは愚の骨頂です」
珍しくネルベェーンが低く渋い声を発し、
「それもそうだ! キレットさん、殿下の御言葉だと、殿下は既に王都でおっぱじめてる御様子、ここは久しぶりに、暴れたらどうですか!?」