第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-2-4 どちらに着くか
ホーランコル、息を飲んで、
「えっ、まさか、この国の魔王でしょうか?」
「そうかもな」
「魔王がどうして、ヴィヒヴァルンと戦争を?」
「知らんよ」
小竜を通して、ルートヴァンの苦笑が聴こえてくる。ホーランコルも肩をすくめ、余計な質問を止めた。
「それで、大公殿下、この私めに御用とは?」
ホーランコルに代わり、シーキが声を発した。
「そうそう……シーキと云ったな。本国に伝えてくれ。おそらく御爺様……ヴィヒヴァルン王ヴァルベゲル8世陛下は、この宣戦布告を利用する」
「利用……ですか?」
「そうだ」
「意味が分かりませんな」
「戦争にはならん、ということよ」
「どうしてです?」
「その前に、異次元魔王聖下が、この国を滅ぼすからだ」
シーキの表情が、硬くなった。
「……ウルゲリアのように?」
「そうだ。すなわち、意図的に……ではなく、結果としてガフ=シュ=インは滅ぶのだ。魔王と魔王の戦いというのは、直接的にも、間接的にもそういうことよ」
「なるほど……」
シーキが、ゴクリと唾を飲み、
「で……我がチィコーザに、どうしろと?」
「間違っても、ガフ=シュ=インに味方して、滅びの道を進まないよう、国王に進言しろ。皇帝にもな。ヴィヒヴァルンはこの宣戦布告を利用し、春には各地へ侵攻を開始するだろう。手始めにどこへ攻めこむかは……知らんがな。なんにせよ、共に歩んだほうが身のためだと云う事よ」
「そのようなこと……!!」
シーキは、思わず笑ってしまった。
が、すぐに表情を引き締め、
「身共ごとき末端が、いきなりそんなことを報告できるわけが御座りませぬ!」
「そうかな? 僕の言葉だぞ。僕のことは、とっくに報告済みなのだろう?」
「それは、そうですが……!」
話が急展開すぎる。
「心配するな。そのうち、御爺様から正式にチィコーザに使者が行く」
「その、裏付けをしろと?」
「察しがいいじゃないか。さすが、第六騎士団だ」
「ううん……!」
シーキが唸った。
「こ、皇帝陛下にもですか?」
「もちろんだ。皇帝は、どちらに着く? 藩王国と内王国と、どちらに着くのか? いかに内心で疎んじていようと、ヴィヒヴァルンは皇帝輩出権を持つ内王国だぞ? 聞くまでもあるまい。まさか、新参で下賤の藩王国と共に滅びの道を選ぶのか? 神聖帝国の皇帝ともあろうものが……」
シーキが、咳払いでルートヴァンの声を遮った。
「その御言葉は、聞かなかったことに……」
「くだらぬ! 遠慮せずに報告しろ。どうせ、チィコーザ王と兄弟だろう。仲良しこよしのな。隠したって意味がない。チィコーザ王と皇帝と、両方に覚悟を求めるのだ」
「殿下……!」
シーキも苦笑する。
「それから、キレット」
「はい、殿下」
「合流を急げ。聖下が動くぞ。あの、地平の向こうの妙な光を見たか?」
「もちろんです」
「おそらくだが、あの光と聖下は関係ある。あれは、ゲベロ島で見た次元の光と同じものだ。理由は分からんが、聖下が関係していると観て良いだろう」
「分かりました。もう、シーキ殿に隠している意味も無くなりましたので、魔法で急ぎ……」
「待て。魔法と云えば、この国には僕の魔法を探知するほどの魔法使いがいるようだ。もっとも、今にして思えば、魔王の仕業だったのかもしれないが……なんにせよ、追手が出るぞ。戦闘は随時許可するが、多勢に無勢だ。僕や聖下と合流するまで、無理はするな。逃げきれ」
「分かりました!」