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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-2-2 最善の行動

 フューヴァも、熱い茶碗を持って、ふうふう・・・・云いながら茶をすすった。


 「宣戦の布告は、皇帝の名においてのみ、発することができるとされているんだ」


 「ガフ=シュ=インの藩王が、それを勝手にやったってことかよ?」

 「結論から云うと、そうなんだけど……」

 ルートヴァンはそこでゆっくり茶をすすり、


 「問題はさあ、現実問題、とっくにそんな御題目は無視されているんだよ。最近では、マンシューアルだって勝手にフランベルツと戦争をしたけど、皇帝を含めて誰にも咎められてないだろ」


 「そうなんだ?」


 「ま、正確には……皇帝府には、権威的にも、実力でも、マンシューアルを咎めるほどの力が無いということなんだけど……それにしても、それをわざわざ、何を考えてあんな古風で大仰なことを、正式に・・・行ったのか……面白い連中だなと思ってさ!」


 「面白いことなのかよ?」


 「だって、マンシューアルですら、そんなことしてないもの! 意味が無いからね!」


 「ガフ=シュ=インの国内向け……ってやつじゃねえの?」


 「ヴィヒヴァルンの場所どころか、名前すら知らないような連中相手にかい?」


 「それは、知らねえけどよ……ヴィヒヴァルンの王様や、あの魔術学校の校長先生は、どう出るんだ? それによって、アタシらやストラさんの動きも変わるんじゃ?」


 「まあ、そうだろうけど……ね。こんなことで、この敵の御膝下からいちいち御伺いを立てている暇は無し、そんな無能は御爺様に殺されかねない。それに、スーちゃんにとっては、何も関係が無い。有象無象の思惑や行動など無視して、問答無用でこの国の魔王を討伐するだろう。僕らは、スーちゃんの動きに合わせて行動するだけだ」


 「でも、肝心のそのストラさんとは連絡がとれてねえじゃんかよ」

 「そこは、予測して動くしかない……任せてくれるかい?」

 「まかせるしかねえだろ、アタシなんかがよ……」


 「そう、あんまり卑下するもんじゃないよ、自分をね。自信を持ちなよ……フューちゃんにしかできないことは、必ずあるんだ」


 ルートヴァンにそう云われ、フューヴァは皮肉にしか聞こえず、片眉を上げて肩をすくめた。


 「なんにせよ、ストラさんやキレット達と連絡を取らなきゃな。ヴィヒヴァルンの王様からも、指示があるんじゃねえの?」


 「御爺様と先生は、勝手に動くと思うよ。僕たち……いや、僕は、スーちゃんと御爺様がたと両方の動きを予測して、最善の行動をとらなくちゃね」


 「どうすんだよ?」

 「いやあ、とはいえ、スーちゃんは予測不可能だからなあ」

 ルートヴァンがそう云って茶碗を片手に笑い、フューヴァも、

 「ちがいねえや」

 と、苦笑する。


 「スーちゃんには勝手にやってもらって、僕らは、キレット達と動こうか。さて……連中は今、どのあたりにいるのかな」


 脇卓に茶碗を置き、ルートヴァンが久しぶりに部屋の隅に立てかけている白木の杖をとった。

 


 その、シーキを案内係として荒涼とした初冬の街道を進むキレットとネルベェーン、護衛のホーランコル達は、王都まであと10日ほどというところまで進んでいた。


 幸いなことに、ここまで何の問題も無く進んで来ている。何度か立ち寄った集落の有力者や関所の役人に通行税の他に賄賂を払ったが、


 「たいてはその後、盗賊が来るんですけどね」

 シーキも不思議がった。


 「それはつまり、賄賂を払えるくらいの、ちょうどよい獲物ってことですか? 襲うよりも、賄賂を払わせておいた方がよいという……」


 ホーランコルの言葉に苦笑してシーキ、

 「まあ、そういうことです」

 「凄い土地ですね……ぜんぶ、つながっているんだ」


 ホーランコルが感心しつつ、呆れ果てた。

 「うーん……」

 シーキが口元をしかめて唸り、


 「盗賊の正体のほとんどが州兵というのは、既に御話ししましたが……常に襲っていては、誰もガフ=シュ=インに商売に来ないじゃないですか」


 「そうなるでしょうね」


 「だから、適当なんですよね……襲ったり、襲わなかったり……。つまり、金持ちそうだから必ず襲うっていうわけでもないし、だからって金を持っていなさそうだから襲わないというわけでもなく……」


 「基準がよく分からない……と」

 「我々の価値基準では」

 「面倒くさい……」

 ホーランコルが本音を漏らし、シーキが、

 「慣れますよ、これが、この国の慣習なんです」

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