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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-2-1 宣戦布告

 オネランノタルが苦笑し、


 「よしよし、まかせておいてよ。……というわけだ。ストラ氏よ、そうさせていただくからね?」


 「うーん……」


 全く聞いていなかったようなストラが、腕を組みそう唸って無表情のまま首をひねったので、一同がやや驚いた。


 「いいよ」

 その答えに、また一同でホッとする。

 「じゃあ、出発でやんす!!」



 2


 彼方の閃光の出現より、5日後である。


 その騒ぎは、ルートヴァンとフューヴァが潜伏している王都オーギ=ベルスの下町にも、即座に伝わった。


 「ルーテルさん、なんか、表が騒がしいぜ」


 昼少し前、分厚い扉を少しだけ開けて外を伺い、フューヴァが緊迫した声を発した。


 「この寒いのに、祭だろうかね?」


 ルートヴァン、石炭ストーブの前の長椅子に寝そべったまま、能天気な調子でそう答える。


 「どうしちまったんだよ、ルーテルさん、ここのところ、気が抜けてるぜ!」


 「だって、待ってるだけだもの。王都にいるっていうのに、マヌケな藩王はまるで気づいた様子はないし……」


 「番人の魔族を倒しておいて、気づいてねえわけねえだろ! 泳がされてるんだぜ」


 「なんのために?」

 「知らねえよ……」


 フューヴァが、路地を行き来する人々に聞き耳を立てる。ルートヴァンの言語魔法により、何種類かのガフ=シュ=イン公用語を理解できた。


 「おい、ルーテルさん」

 「なんだい?」

 「センセンフコクってなんだよ」


 「宣戦布告だって!?」

 ルートヴァンが、目を丸くして飛び起きた。

 「ガフ=シュ=インが!? 宣戦布告!?」


 「だから、なんなんだよ、そいつは……」

 「行ってみよう、フューちゃん」

 「はあ?」


 変装と防寒の為、上着を着こんで顔をマフラーめいた長布でぐるぐる巻きにする。いつもの、買い出しの姿だ。フューヴァが舌を打ちつつ、同じように手早く準備をした。


 石炭をかき出してストーブの火を弱め、家を出て人の流れに紛れる。

 表通りに出て、王都各所の小広場に出された高札の1つに群がった。


 「読めるか?」

 「役人が読みあげてる」

 字を読めない者のために、高札の前でひたすら叫んでいる男性が云うには、


 「このたび、我がガフ=シュ=イン藩王ドゲル=アラグ=ガウ=ガフシュ陛下におかれては、皇帝陛下とガフ=シュ=イン藩王の名のもとに、バーレン=リューズ神聖帝国の規律と平和を乱すヴィヒヴァルン王国へ宣戦を布告した!」


 集まっている人々がざわめき、どういうことか議論し合う。役人は何回もそれだけを繰り返し、叫び続けた。


 (どういう事なんだよ……!?)


 フューヴァは意味が分からず、巻いた布の合間から出した眼を細めてルートヴァンに向けたが、ルートヴァンは腹を抱えて笑っていたので、


 「おい、気でも狂ったのかよ!?」

 あわてて肩を揺さぶった。


 「ま……まあ、は、話せば……長いからさ……! い、い、いったん……いったん帰ろう……!」


 ルートヴァンは笑いをこらえながらなんとかそう云うと、フューヴァの手を引いて借家に戻った。


 下町の路地裏に戻り、ストーブに石炭をくべて火を大きくすると、布を外し上着を脱いだ。


 ルートヴァンは、まだ笑っている。

 「そんなに、面白いことなのか?」


 そんなルートヴァンを見ていて、フューヴァも不思議と楽しくなってきた。湯を沸かし、冬季のビタミン源でもある煮出し発酵茶を用意する。


 「で? さっきの、なんなの?」


 どす黒くてカビ臭いが、慣れると異様にうまい煮出し茶をソファのルートヴァンに渡し、フューヴァが尋ねた。これを毛長牛ゲルクの乳で煮出すと、乳茶ゲルチャになる。


 ルートヴァンは、フューヴァにも理解できるよう、なるべく砕いた表現で話そうと、しばし茶碗に息を吹きかけていたが、


 「いや、まあ……そもそもさあ、神聖帝国を構成する諸国は、諸国間はもちろん、対外戦争も含めて勝手な戦争は厳しく禁止されている」


 「聞いたことあるぜ」

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