第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-1-6 前にもまして
寝ぼけ眼ながら、プランタンタンが起き上がった。ペートリューはまだ死んだように気絶したままだったが、どうせ酒の匂いを嗅がせれば起きるので放っておいた。
「旦那、旦那、どこにいるんで!? 御宝倉庫の入り口の開け方は、ちゃんと覚えてますでやんしょうね!?」
プランタンタンにとっては、当然の如く、それが本音だ。
「オネランノタルに聞かねえと、分かんねえよお。少し休んだら、行ってみようぜえ」
「ええっ、またあそこまで歩くんで!?」
閃光が収束した先は、尾根を2つ半も越えたところだった。ここまで、ピオラが逃げてきたのだ。
「あんたらは、ずっと寝てたじゃねえかよお!」
ピオラがそう云って笑い、プランタンタンもさいでやんした、と頭をかいた。
「ペートリューさん、起きてくだせえ! ストラの旦那が、眼を御覚ましになったみてえでやんす!」
云いつつ、プランタンタンはもう倒れているペートリューの背負う(ほとんどカラになっている)酒樽や鞄の水筒をまさぐり、まだトライレン・トロールの酒の入っている水筒を見出すと蓋を開けた。
その時、適当に開けたものだから少しこぼれた。
「アアアアアアーーーーーーーーーーッッップランタンタンさんんんんもっったいないですうううううう!!!!!!!!」
それまで何時間も気絶していたペートリューがやおら起き上がってそう叫び、プランタンタンから眼にも止まらぬ速度で水筒を奪うや、喉を鳴らして焼酎の原液を水を飲むように一気飲みした。
プランタンタンはもうそんな光景を見慣れているはずだったが、何回見ても呆れ果ててドン引きした。
逆に、ピオラが腹を抱えて大爆笑した。
「ペートリューはすっげええなあ! こんな人間は、めったにいねえぞお! なあ、プランタンタンよお、大明神サマは、きっとおっもしれえヤツが好きなんだろなあ!」
プランタンタンは、ペートリューと一緒にされたことに納得ゆかず、憤慨して濡れ落ち葉を何度も踏みしめた。
「あっしは、面白くもなんともねえでやんす!」
「よおし、じゃあ、大明神サマを迎えに行こうぜえ!」
ピオラがそう云ったとき、
「その必要はないぞ」
オネランノタルの声がして、気がついたらオネランノタルと、そのやや後ろに立つストラが森の中に出現していた。
「だだだ、旦那ああああああああ~~~~!!」
真っ先に、プランタンタンが泣き出して駆け寄った。
「御無事で……御無事で目覚めなすって、本当に良かったでやんすううううう~~~~!!」
涙をぬぐいながら、ストラの前でピョンピョンと跳びはねる。
だが、なんとなく様子がおかしいことに、ペートリューはすぐに気がついた。
前にも増して、ボンヤリしている。
「ス……ストラ……さん……ストラさん?」
ペートリューの声にも、いつもの半眼無表情で、突っ立ったままだった。
「ストラさん? あ、あ、あたし達のこと……覚えてます?」
「え?」
プランタンタンが一発で泣き止んで、ペートリューを振り返った。
そしてストラと、オネランノタルを見やった。
オネランノタルは肩をすくめて、
「私は分からないよ。次元振動を調整して……うまいこといったと思っているけど……そもそも、魔法で眠らされていたわけじゃないということだったし……副作用がどうなるかまでは、責任はもてない。目覚めただけでも、奇跡だろうさ」
「そ、それはそうでやんしょうが……」
旦那に預けてある、あっしの御金様はどうなるんでやんす!!!!!!
そう喉まで出かかったプランタンタンが、あわてて言葉を飲みこみ、
「だ、旦那、旦那、まさか、あっしらのことを御忘れになっちまったんで……?」
「うん」
「ゲギエエエッ!!」
プランタンタンが白目をむいて気絶する直前、
「覚えてるよ」
そう云って、ストラが半眼のままものすごく遠くを見ながら、ラジオ体操を始めた。
が、すぐにやめた。
「覚えてるよ」
そして、もう一度、そう云った。
仰け反ったプランタンタンが、またペートリューを見た。
ペートリューも半笑いで、肩をすくめる他は無い。