第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-1-4 一言多い
「それ以前にも、マンシューアルは周辺国と諍いを起こしまくっておる」
「南にできて、北にできない理由はないい!」
「とっくに神聖帝国は、内戦に突入しておるわ……!」
「皇帝など、もはや名だけよ……!」
「勝手に帝国内部で戦をしても、マンシューアルに何ら咎めはないのだ」
「それを利用……」
「利用するのだ!」
「利用しろ!」
「利用だ!」
「頭をつかえ、藩王よ!!」
「よく、それで藩王が務まるものだな!!」
「情けない……!」
この魔王は、厭味ったらしく、いちいち一言多い。それが、15体もいるのだから、たまらぬ。
ドゲル=アラグは、早く話が終わらないかと思い、奥歯をかんだ。
「この北の草原王国の平和のためだ!!」
「平和だ!」
「平和が一番!」
「侵略を許すな!!」
「うまく立ち回れ!」
「とにかく平和だあああああ!!」
「藩王よ……どこの馬の骨とも知れぬ異界の魔王などに、でかい顔をさせてはいかん」
「ハァハーッ……!」
「タケマ=ミヅカ殿も、タケマ=ミヅカ殿よ!」
「そうだ!」
「何を考えて、あのような……!!」
「だいたい、タケマ=ミヅカ殿が勝手に我らを魔王などと……」
「迷惑千万!!」
「だから、わけの分からぬ奴原が、このように魔王退治にやって来るのだ」
「その通り!」
「そうだ、そうだ!」
「迷惑なんだってば!!」
「我らはただ、平和に穏やかに、安らかに、神の子と草原王国と共に、生きているだけなのに……!」
「許されぬわ!!」
「何が大魔神メシャルナーだ……えッらそうに」
「ばか、声が高い……!」
「どうせ、聴こえぬわ! 先般から、ねむり続けておる」
「そうか」
「聴こえぬか」
「ウルゲリアで、無理をしたからな」
「ゴルダーイも、年をとっていた」
「ボケ老人では、あのストラとかいうやつには勝てん」
「ロンボーンは惜しかったがな」
「あやつは、狂っておった」
「空を飛ぶ虚ろ船にな」
「それでは勝てぬわ」
「いかさま」
「いかさま!」
「いかさまあ……!」
じゃ、おまえらなら勝てるのかよ、とドゲル=アラグは思ったが、
「藩王よ、分かったな!!」
「畏まりまして御座りまする……!!」
とにかく、そう云ってひれ伏す他は無い。
魔王の直言は、このようにほぼ自由闊達な会議の様相を呈し、キヤ=フィンシ=ロの言葉は会議の結果のみを知らせるためにある。重大な事案は、魔王の会議に藩王も参加させられ、その場で即座に結果を伝えられる。
奥の間より戻ってきたドゲル=アラグを出迎えたレザル=ドキは、
「陛下、いかが……」
そう云ったっきり、青黒いまでに怒りの形相のドゲル=アラグを見やって、固まってしまった。
そのまま、無言でドゲル=アラグがレザル=ドキを無視して控えの間を出てしまったので、レザル=ドキがあわてて後を追った。
「へ……陛下……!」
「帰るぞ」
「い、いまからですか!?」
「今からだ!」