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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-EP それぞれの輝き



 ※


 「あの光は……!?」


 真っ暗な地平線の遥か向こうに、大地から天まで登る光の柱ともカーテンとも云えぬものが出現し、煌々と光り輝き始めたので、キレット、ネルベェーン、ホーランコルは驚いて目を細めた。


 「シーキさん、あ、あれはいったい……!?」

 光に驚く毛長牛ゲルクたちをなだめていたシーキが、同じく目を細めて振り返って、


 「あれは、ガフ=シュ=インの伝説の光です。『彼方の閃光』というらしいです。私も、初めて見ましたが……」


 「彼方の閃光……!?」

 そのまんまの名前に、むしろ不気味さが付きまとう。

 「いったい、何の光でしょう」


 魔法の光かと思って、思わずホーランコルがキレットにそう尋ねたが、いちおう今のところまだキレットとネルベェーンは魔法使いではなく商人ということになっていたので、キレットも答えようが無かった。


 「分かりません」

 そこでキレットがシーキを気にしつつ、こっそりと、

 「魔法の光ではなさそうです」

 と、ホーランコルに耳打ちした。


 4人は幸運なことに何事も無く街道を進み、30日ほどが経過していた。王都オーギ=ベルスまで、あと20日程度といったところだった。



 王都オーギ=ベルスでも、その遥か彼方のダジオン山脈の山の端を暗闇に際立たせる光のカーテンは目撃された。


 人々はざわめき、中には光に祈りを捧げる者までいる。

 「おい、見ろ!」

 「ありゃあ、『彼方の閃光』だ!」


 「何年ぶりだ……あんな、大きいのは……!」

 年配の者が、そう口にする。


 下町に潜伏したルートヴァンとフューヴァも、厚着をして表に出る人々にまぎれ、その虹色に光る柱とも布とも云えぬ輝きを凝視した。


 「彼方の閃光……?」

 ルートヴァンが、目を細めて遥か地平の奥の虹のカーテンを見やった。


 「只の光でも、魔法の光でもなさそうだ。かなり遠いと思うけど、あんなにハッキリと見えるなんて……」


 「おい、なんだよ、ありゃあ……ルーテルさん、知ってるか?」

 フューヴァも、眉をひそめて凝視し、白い息を吐く。

 「いや、分からないな……けど……」


 「けど、なんだよ」

 「ゲベロ島で見た光に、似てないか?」

 「ゲベロ島で?」


 フューヴァ、アッと小さく声に出す。魔王ロンボーンとストラとの戦いで光り輝いていた。


 (それに……タケマズカさんといた時にも……たしか、ありゃあ、ウルゲリアの勇者どもとストラさんが戦った時だぜ……!)


 フューヴァは、プラコーフィレスの次元断層攻撃の際の次元光を思い出した。

 「……じゃあよ、あれはストラさんの仕業か!?」


 「さあな……聖下より、なんの連絡も無い……むしろ、そうだと良いのだけどね」


 ルートヴァンは、妙な胸騒ぎがして、たまらなかった。



 「陛下、陛下!!」

 「どうした」


 寝る前に、若い側室の一人と語らっていた藩王ドゲル=アラグが、流石に眉をひそめたが、


 「これまでに無い規模で、彼方の閃光が……!!」


 最側近である宰相アイト=ズム=ガウの緊迫した声に、すぐにしなだれてる側室を押し退けて立ち上がった。


 重ね着をし、王都の中央にそびえる小高い丘の上の宮殿の物見台から見やると、雲を突き破り、凄まじい高さまで天に向かってそびえている虹色の閃光があった。


 暗闇の中、白い息を吐いて藩王、

 「……神の子サマタイの、云った通りだ……」

 「いかさま」

 斜め後ろに控えながら立つ宰相が、身を低くして答えた。


 「しかし、あの光が見えているということは……動けぬ魔王を捕らえるのには、失敗したようだな、神の子サマタイの後に控えているヤツは!!」


 忌ま忌ましげに、藩王ドゲル=アラグが吐き捨てた。

 「陛下! 御声が……!!」


 神の子サマタイの秘密を知っている数少ない1人である宰相が、身をすくめて叫んだ。

 「かまうものか! 我が国と神の子サマタイが滅べば、やつ・・とて滅ぶのだぞ!」


 「いかさまながら……!」

 「こうなっては、どうあっても勝ってもらわねば……!」


 何度も舌を打ちながら物見台から下がった藩王に、今度は近衛将軍であるレザル=ドキが転がるように近づいてきた。


 「今度はなんだ……!」

 「サ、神の子サマタイが、御呼びで御座りまする……!!」

 唸り声を発して、藩王がそこらの装飾品を蹴りつけた。

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