第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-EP それぞれの輝き
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「あの光は……!?」
真っ暗な地平線の遥か向こうに、大地から天まで登る光の柱ともカーテンとも云えぬものが出現し、煌々と光り輝き始めたので、キレット、ネルベェーン、ホーランコルは驚いて目を細めた。
「シーキさん、あ、あれはいったい……!?」
光に驚く毛長牛たちをなだめていたシーキが、同じく目を細めて振り返って、
「あれは、ガフ=シュ=インの伝説の光です。『彼方の閃光』というらしいです。私も、初めて見ましたが……」
「彼方の閃光……!?」
そのまんまの名前に、むしろ不気味さが付きまとう。
「いったい、何の光でしょう」
魔法の光かと思って、思わずホーランコルがキレットにそう尋ねたが、いちおう今のところまだキレットとネルベェーンは魔法使いではなく商人ということになっていたので、キレットも答えようが無かった。
「分かりません」
そこでキレットがシーキを気にしつつ、こっそりと、
「魔法の光ではなさそうです」
と、ホーランコルに耳打ちした。
4人は幸運なことに何事も無く街道を進み、30日ほどが経過していた。王都オーギ=ベルスまで、あと20日程度といったところだった。
王都オーギ=ベルスでも、その遥か彼方のダジオン山脈の山の端を暗闇に際立たせる光のカーテンは目撃された。
人々は騒めき、中には光に祈りを捧げる者までいる。
「おい、見ろ!」
「ありゃあ、『彼方の閃光』だ!」
「何年ぶりだ……あんな、大きいのは……!」
年配の者が、そう口にする。
下町に潜伏したルートヴァンとフューヴァも、厚着をして表に出る人々にまぎれ、その虹色に光る柱とも布とも云えぬ輝きを凝視した。
「彼方の閃光……?」
ルートヴァンが、目を細めて遥か地平の奥の虹のカーテンを見やった。
「只の光でも、魔法の光でもなさそうだ。かなり遠いと思うけど、あんなにハッキリと見えるなんて……」
「おい、なんだよ、ありゃあ……ルーテルさん、知ってるか?」
フューヴァも、眉をひそめて凝視し、白い息を吐く。
「いや、分からないな……けど……」
「けど、なんだよ」
「ゲベロ島で見た光に、似てないか?」
「ゲベロ島で?」
フューヴァ、アッと小さく声に出す。魔王ロンボーンとストラとの戦いで光り輝いていた。
(それに……タケマズカさんといた時にも……たしか、ありゃあ、ウルゲリアの勇者どもとストラさんが戦った時だぜ……!)
フューヴァは、プラコーフィレスの次元断層攻撃の際の次元光を思い出した。
「……じゃあよ、あれはストラさんの仕業か!?」
「さあな……聖下より、なんの連絡も無い……むしろ、そうだと良いのだけどね」
ルートヴァンは、妙な胸騒ぎがして、たまらなかった。
「陛下、陛下!!」
「どうした」
寝る前に、若い側室の一人と語らっていた藩王ドゲル=アラグが、流石に眉をひそめたが、
「これまでに無い規模で、彼方の閃光が……!!」
最側近である宰相アイト=ズム=ガウの緊迫した声に、すぐにしなだれてる側室を押し退けて立ち上がった。
重ね着をし、王都の中央にそびえる小高い丘の上の宮殿の物見台から見やると、雲を突き破り、凄まじい高さまで天に向かってそびえている虹色の閃光があった。
暗闇の中、白い息を吐いて藩王、
「……神の子の、云った通りだ……」
「いかさま」
斜め後ろに控えながら立つ宰相が、身を低くして答えた。
「しかし、あの光が見えているということは……動けぬ魔王を捕らえるのには、失敗したようだな、神の子の後に控えているヤツは!!」
忌ま忌ましげに、藩王ドゲル=アラグが吐き捨てた。
「陛下! 御声が……!!」
神の子の秘密を知っている数少ない1人である宰相が、身をすくめて叫んだ。
「かまうものか! 我が国と神の子が滅べば、やつとて滅ぶのだぞ!」
「いかさまながら……!」
「こうなっては、どうあっても勝ってもらわねば……!」
何度も舌を打ちながら物見台から下がった藩王に、今度は近衛将軍であるレザル=ドキが転がるように近づいてきた。
「今度はなんだ……!」
「サ、神の子が、御呼びで御座りまする……!!」
唸り声を発して、藩王がそこらの装飾品を蹴りつけた。




