第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-3-19 いよいよマジで暇つぶし
プランタンタンが、困惑しつつ肉を頬張る。いまいち、オネランノタルの感情の振り幅が読めない。
「でもよお、なんで、魔法で眠らされてるのに、彼方の閃光でも目覚めねえんだあ? 理屈に合わねえだろうがよお」
「理屈と云っても、いろいろなんだよ」
「どういうこったあ?」
「そこの魔法使い、どういうことか、分かるかい?」
オネランノタルが、ずっと火に当たったまま背を向けて酒を無限に飲み続けているペートリューに声をかけた。
「そんなん、分かるわけねえでやんす」
と、プランタンタンが思わず声に出そうとしたが、ペートリューは焚火を見つめたまま、
「……次元の裂け目から発せられる光の振動が、魔力の固有振動を打ち消すので、魔法効果も消失するんだと思います。けど、ストラさんはそもそも魔力を使わないので、その振動を打ち消す効果もどう作用するか、全く読めません」
「へえ?」
プランタンタンが驚いて、口にしていた肉を喉の詰まらせそうになる。
オネランノタルは、満足そうに4つの目を細めてクスクスと笑い、
「面白いね……こいつ、人間というより魔族に近い……。人間やエルフどもの編み出した、非効率な魔術式はこれっぽっちも使えないけど、魔力は上手く使えるんだ……。が、使い方がよく分かっていないし、使おうという気もない……。時々、無意識で、勝手に使っている。面白い……すごく面白い……気に入ったよ……!」
「はあ……」
プランタンタンが、オネランノタルを見やった。我ながら、ストラの周りに集まるヤツは、変なのばかりだと思った。
「ストラの旦那が目覚めなかったら、もうそん時はそん時でやんす。あっしらの旅も夢も、そこまでだったっちゅうことで」
「よしよし、いいよ。きみらが飯を喰い終わったら、さっそく試してみよう」
「オネランタの旦那は、メシは食わねえんで?」
「魔族は、ものを喰わないよ。喰う奴もいるけど、私は喰わない」
「左様で……じゃあ、この肉やら酒やらは?」
「まあ、君らの食べる肉や飲む酒なんか、どうにでもなるよ。上質の竜肉と、酒は……よく分からないけど、ガフ=シュ=イン人が飲むやつさ」
「よかったなあ、プランタンタンよお」
云いつつ、ピオラは笑顔でひたすら肉を食いちぎり、ペートリューは酒を飲み続けている。
「そういや、今更でやんすが、オネランタの旦那は、なんであっしらを助けてくれたんで?それに、助けてくれたっちゅうことは、あの魔獣は、旦那の指図じゃあねえってことでやすんか? それに、この肉や酒は、どこから? 旦那は、メシを食わねえっちゅうのに……いや、そもそも、ここはどこなんで?」
プランタンタンが一気に云い放ち、オネランノタルはうなずきながら、順に答える。
「ここは、彼方の閃光の近くの洞窟だよ。あんな魔竜は、500 年ほどここにいるけど、見たことないな。しかし、じゃあ誰が……と云われると、この国であんな魔竜を使えるのは……」
そこで、オネランノタルは細い顎に手を添えて小首をかしげ、4つの眼で遠くを見据えた。
肉を頬張るプランタンタンとピオラが、オネランノタルの答えを待った。
「星隕の魔王……リノ=メリカ=ジントだろうね」
「……この国の魔王……ってことでやんすか?」
「そうだよ」
「魔王が、動けねえ大明神サマを魔竜で襲ったのかあ!?」
「そうなるね」
「きったねえやつだ……!」
憤慨して、ピオラが肉を毟りかじった。
オネランノタルが話を戻し、
「君らを助けてやったのは……君らがここに近づく行程をずっと観てたけど、ピオラが本気で君らの手伝いをしているし、そこまでする魔王ストラ氏に興味がわいたからさ。こりゃあ、いよいよマジで暇つぶしできそうだなー~~ーーってね!」
ニッコリと笑顔になるオネランノタルだったが、文字通り悪魔の微笑みにしか見えなかった。
「はあ……(コイツは、やべえヤツでやんす)」
プランタンタンは、もうあまり構わないことにした。ストラが目覚める(可能性がある)のならば、なんでもいい。
「それじゃあ、遠慮なくメシを食っちまうでうやんす」
ナイフで串に刺した肉を削り切り、急いで食べ始める。次にまともに食べられるのは、いつか分からない。
時刻的には、氷の魔竜の襲撃を受けてから、2日後の夕刻だった。
オネランノタルは、別にこの洞窟に住んでいるわけではなく、ものすごく極々たまに彼方の閃光を訪れる者が休めるようにしているだけだという。




