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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-3-18 オネランノタル

 果たして、それは4つ目であった。


 凝縮した闇が融けたように現れたのは、やけに立派で装飾的な刺繍も見事な、魔術師ローブに近いゆったりとした衣装に身を包んだ、プランタンタンほどの背格好の小柄な少女だった。


 が、もちろん人間ではない。エルフでもない。いや、魔族であるというのなら、性別すらないだろう。黒い眼が2つ、碧の眼が2つあり……肌は、黄色地に眼と同じく黒と碧の規則的な縦線模様が縞のようにあった。その額には、小さく濃い茜色の宝石が埋めこまれている……。


 が、それは高濃度の赤色シンバルベリルだった。


 それだけで、準魔王級か、下手をすれば魔王級の実力を有していることが分かる。


 長い、岩苔めいた髪(の、ようなもの)を、頭の後ろで結んでいた。

 「番人の、オネランノタルだあ」

 「よろしく、勇敢で狡猾なゲーデル牧場エルフちゃん」


 合成された虫の音のような声が、自動的に何語とも云えないが理解できる言語に変換された。翻訳機も通していない。高出力の魔力が、プランタンタンの記憶にある最も理解できるゲーデルエルフ語かリーストーン語に変換しているのだ。


 プランタンタンは、肉の串を持ったまましばし呆然としていたが、


 「……へ、へえっ、あっしは、プランタンタンっていうケチなエルフでやんす。このたびは御助けいただいたとのことで、御礼もうしあげるでやんす。失礼ながら、御助けいただいた御方の御名前を、もう一度……」


 「オネランノタル……だよ」

 魔族がゆっくりと、そう云った。


 「オン……ネラ、ン……タルの旦那! 御有難うごぜえやす! どうか、どうかあっしらの主人であるストラの旦那を、御助けいただきたく、この通り、御願えするでやんす」


 ペコペコと頭を下げてそう云いつつ、肉は離さない。

 オネランノタルが楽しそうに、


 「おっもしろい連中だなあ、ピオラ。そっちのやつは、ひたすら酒を飲んでるし……この私を前にして、恐怖も畏怖も動揺も無く……自分を失わない。初めて見るよ、こんな連中はさ」


 「だろお?」


 そう云うピオラも、肉を食べる手を止めない。凄まじいエネルギーを消費した、重戦闘モードの反動だ。飢餓状態なのである。


 「その主人という、魔王ストラ氏……! きっとこいつら・・・・は、私などより遥かに凄まじく恐ろしい魔王ストラ氏を観ているから、私に恐怖も畏怖も動揺も無いんだよ。既にレミンハウエル、ゴルダーイ、そしてロンボーンまで倒したというのは知っているし、魔力の動きは掴んでいる。本当に、魔力を使わないんだ、この魔王。大明神タケミナカトル様から、認められるだけあるよ」


 「へ、へえ……」


 プランタンタンが、表情豊かなオネランノタルを見上げて、ナイフで切った肉をかじった。


 「面白い! 面白すぎるよ!! いったいぜんたい、どうなっているんだい!? この魔王は、どうしてこの世界に現れ、この世界をどうしたいのかな!? 知りたい!! どうあっても知りたくなったよ!! ストラ氏を目覚めさせて、私も是非、同行したい!」


 オネランノタルがいきなりそう叫んだので、プランタンタンも驚き、


 「へええ!? オンネタの旦那も、あっしらについて来るってことでやんすか!?」


 「そうだよ! あのね、つまりね、とにかくね、暇なんだよ。分かるかい!? ヒマなの! マジのマジの大マジで、メチャクチャヒマなんだ!! 魔族ってのは、とにかくヒマなんだよ!! 面白いことないかなーー~~ーーっと思って、ずーっとここ・・にいたけど、もう飽きたんだよ。分かるかなあ!?」


 「いや、分からねえでやんす」


 「分からなくてもいいよ、とにかくそう決めた! 決めたったら決めたんだから!!」


 「よかったなあ、プランタンタンよお」

 ピオラが、肉を頬張って笑みを浮かべた。

 「ピオラ、お前も来いよ!」


 「いやあ、あたいはいいよお」

 ピオラは笑いながらそう云ったが、

 「いいから来い」


 「はい」

 オネランノタルが急に据わった声を発したので、目を丸くして即答した。

 「だが、プランタンタンよ……」

 「へ、へえ」


 その声の調子のまま、オネランノタルがプランタンタンに話しかけたので、プランタンタンも緊張する。


 「魔王ストラ氏が、あくまで魔力を使わないのであれば……彼方の閃光でも、目覚めないかもしれないよ」


 「そ、それは、トロールの巫女さんにも云われやんした。しかし、やってみねえと分からねえでやんすし、何もしねえわけにもいかねえんでやんす」


 「その意気やよーし!」

 「へえ……」

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