第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-3-16 魔力の流れを読む
つまり、ただでさえ対魔効果+350の刃が食いこむどころか、倍増したトライレン・トロールのパワーも加わって胴体がほぼ両断される。
毒液にも等しい高濃度魔力の組織液と同時に猛烈な冷凍ガスを吹き巻いて、魔竜が絶叫を上げた。この冷気ガスは、自身の傷を冷凍させてダメージを抑えるためのものだった。
そこへ、容赦なくピオラがメチャクチャに斧を振りつけた。一気に勝負に出て倒しきってしまわないと、この重戦闘モードの反動が来る。そうなれば、一発大逆転で魔竜の勝利だ。
「でゅらおらどらおらおあらぐぅうらああああああ!!!!!!」
右手の斧と左の拳打に加え、踏みつけるような蹴りも連打し、とにかく魔竜を物理的に破壊して行く。
小細工無し。
ひたすら物理。
これが、トライレン・トロールの戦闘法だ。
しかし、敵も然る者。
魔竜は、またも1匹ではなかった。
ピオラと魔竜の凄まじい戦いの近くで、ストラの収められているピオラの背負子と箱を、どこからともなく現れた小型の魔竜がサッと掠め取って一気に空中に舞った。
それを、酒樽を抱えて無意識に魔力の防御バリアで酒を護っていたペートリューがたまたま目撃し、
「アッ!! アアーーーーッ、ストラさん!! ストラさんがあああ!!!!」
すなわち、正体不明の敵の目的はシステムダウンしているストラであり、いまピオラと戦っている大型の魔竜は囮であった。
「次の大明神様があ!?」
これも無意識の魔力による拡声効果で大音量のペートリューの声を聴いたピオラ、
「このクソ、待ちやがあれええええ!!」
凄い速度で空中を進む小型の魔竜めがけて、多刃斧を投げつけた。
だがその腕を、グチャグチャにされた大型の魔竜が何か触手めいたものでとらえたものだから、斧が明後日の方向に飛んだ。
「アッ、クソがあああ!!」
怒り狂ったピオラが、振り返ってメチャクチャのボゴボゴに魔竜を殴りつけ、引き裂き、踏みつける。
斧は魔法効果でブーメランのように弧を描き、それがたまたま一直線に飛び去る小型の魔竜をかすめた。
箱を抱えた魔竜が驚いて進路を変え、いったん山間に下がって避難する。
その真正面に、梢の先まで上っていたプランタンタンがいた。
「……うわうわうわうわでやんすううううう~~~~~!!!!」
逃げるに逃げられず、そのままストラの入っている箱にしがみついて、空中に舞った。
「うッッひょおおぉおおぅおおおおぉおぉお~~~~!!」
言葉も出ずに、眼を回して叫ぶ。魔竜は、プランタンタンをものともせずに凄い速度で尾根を下り続け、谷底近くから力強く羽ばたいて上昇した。
「ッピ、ピ、ピ、ピピ、ピオラの旦那あああああああ~~~~!! たああすけておくれでやんすーーーー~~うううううう!!!!」
上昇に伴って速度が落ちたので、プランタンタンはとにかく叫んだ。その声が谷間にこだまし、寒風の吹きすさぶ山間に轟いた。
ピオラはその声に気づいていたが、潰しても潰しても大型の魔竜が触手を伸ばし、不定形生物のようにまとわりつくのに手を焼いていた。しかもその触手が凍結力を保持し、すさまじい低温を伴って掴みかかってくる。人間であれば、触手に巻かれただけで凍結し砕かれるだろう。
(チックショウ、やっぱり魔法で攻撃しねえとダメだあ! トドメを刺すのに、手間がかかるう!)
自動で戻ってきた魔法の戦斧を使ってひたすら叩いているが、魔力中枢器官が移動しているものか……いっこうに潰せない。もはや、身体の中央部がどこなのかもよく分からなくなっている。
このままではピオラの戦闘力倍増モードも時間切れとなり、全滅は必至だ。
「どうなってんだあああ!! こいつはよおおおお!!」
怒って暴れるだけでは、魔法生物……魔物には、対処できない。魔力の流れを、読まなくては。
この中で魔力の流れを読めるのは、ペートリューだけだった。




