第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-3-14 魔力の歪みを辿る
「いやっ」
ペートリューは何度も首をひねり、
「わかんない」
「そおー~でやんしたッ!」
聞いた自分がバカだったと思うのは、これで何度目だろう。学習しない自分にプランタンタンが自己嫌悪していると、
「いやあ、でもよお、それが分かっただけでもたいしたもんだあ」
ピオラの顔に、笑みが浮かぶ。
「そうなんでやんすか?」
プランタンタンが、呆けた表情で尋ねた。
「前に、巫女様が云ってたんだあ。魔法で歪んだ土地を通る方法をよお。アタシにゃあ無理だけど、巫女様ならできるんだあ。ペートリューよお、そこまで分かるんならよお、魔力のゆがみを辿って、道案内してくれよお」
「えっ、あたしがですか!?」
ペートリューが、しゃっくりのような声を出す。水筒を傾けたが、もう空だった。
「だいじょおぶだあ、できるできるう!」
「いやっ、でも、わわわ、わかんないですよお、そんなの」
「分かんなかったら、ずーっと山をさまよって、死ぬだけだあ」
「ペートリューさん!! 分からなくても、やるんでやんすよ!! 酒が飲めくなる前に!!」
プランタンタンの声に、一瞬でペートリューの顔が引き締まる。ペートリューは、酒で世の中と自分が回っている。最優先は、酒だ。酒を引き合いに出せば、話は信じられぬほど早い。
「お酒の為です。分かりました……明日、やってみます」
「きまりでやんすうう~~」
ゲッシッシシッシッシッシ……と、プランタンタンが久しぶりに肩を揺らして笑った。
翌朝から、ペートリューは残り少ない酒を水筒に移してチビチビ飲りながら、先頭に立って歩いた。
その後ろを、ストラの収められた箱を背負うピオラと、プランタンタンがヒョコヒョコとついて歩く。
元よりこの3人の中ではペートリューが最も歩くのが遅いため、むしろ後ろの2人はもどかしいほどの歩みの遅さだったが、ピオラは真剣な表情でウロウロするペートリューを見守った。
だがプランタンタンは、なぜペートリューが同じようなところを行ったり来たりするのか、皆目見当がつかない。
「ペートリューさん、本当に道が分かってやす?」
何度も、そう尋ねた。
「いやあ、道は分かりませんよ」
何度めかで、ペートリューがそう答えた。
「ハッキリ云いやあすね!」
プランタンタンが、驚いて薄緑の眼を丸くする。
ペートリューにしてみれば、なんとなく感じる魔力の歪みを辿っているだけなのだ。
だが、ピオラはそれで充分だと思っていた。
じっさい、そのように歩いて3日め……。
「最後のメシだよお」
夕刻前、明るいうちに休憩したときに、ピオラがそう云って些少の干し肉をプランタンタンへ渡した。プランタンタンが、絶望の極みのような表情でそれを受けとったが、
「見なよ、彼方の閃光が近づいてきているよお」
ピオラが干し肉をかじりながら、顎で大きな岩の奥を指した。
「……うっへへえ! ホ、ホントでやんす! こう……光の幅が、いつの間にやら広がって……!」
「あと、ちょっとだあ」
しかし、そう云うピオラの表情は厳しい。
と、云うのも……。
「近づけば近づくほどよお、気配が強くなってるぞお」
「……なんのでやんす?」
「魔竜だあ」
「げえっ」
プランタンタンが肉をかじる顎を止め、呻く。
「しかもよお、半端じゃねえくらいにでけえぞお」
「ど……どうするんでやんす? やっぱりその……番人だっちゅう、魔族の差し金でやんしょうか?」
「分かんねえ。分かんねえけど……やっぱりよお、番人は、そんな魔竜を使うようなやつじゃあねえ。自分が、ものすげえ強えからよお、自分より弱えやつに仕事を任せることはしねえ」
「でも、あの光の場所から、動けないんでやんしょう? じゃあ、あっしらみてえに光に近づく奴ばらを退治するために、魔物を使ってるんじゃあ?」




