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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-3-12 無意識の酒パワー

 身体の半分近くも消失し、なにより魔力中枢器官が破壊され、魔竜パガンゲドルの肉体が崩壊する。ピオラは経験則で、魔物はとにかく身体の中心付近を破壊すると全身が消滅することを知っていた。


 身体に飛び散った漆黒の肉片も塵と化して風に消え、ピオラは地面に突き刺さっている戦斧を引き抜くや、まだ飛んでいるはずのもう1匹の魔竜パガンゲドルを探した。


 が、気配も無く、姿も無かった。もう1匹も消滅したか、逃げたと判断できた。


 「おい、おおーい! 無事かあ! プランタンタンよお! ペートリューよおお!」


 「無事でやんすううう~~~~!!」

 すぐさま、藪からプランタンタンが這って出てきた。

 「いやああ、ピオラの旦那も、御強えでやんすねえ~~!」

 「ペートリューは、どこだあ?」


 ピオラが、トロールの眼で周囲の生物を探知する。赤外線探知に近いが、生命反応を探知していると云ったほうが正確だ。


 「おーい! ペートリューよお!」

 返事も無ければ、ペートリューは現れなかった。

 「まさか、死んじまったのかあ? がけ下・・・にでも落ちてよお」


 「そんなわけねえでやんす。きっと眼にも止まらねえ速さで遠くまで逃げて、酒飲んで気絶してるんでやんす」


 「そんなことって、あるう?」

 ピオラが流石に半笑いで尋ねたものの、プランタンタンの真剣な顔を見て、

 「まじめにかあ」


 捜索範囲を、広げることにする。

 「はぐれるんじゃねえぞお」

 「もちのろんでやんす」


 ピオラが木々や藪をかきわけ、土手や岩場を上り下りし、後ろをついて歩くプランタンタンと共にペートリューを呼びかけ続けたが、何の返事も無かった。


 「こんなの、分かんねえよお」


 1時間ほども魔竜パガンゲドルを倒した場所を中心にウロウロしたが、ペートリューの行方は知れなかった。


 ここにきて、プランタンタンも心配になってくる。ため息をつきつき、

 「なあんで、あの人はいっつもいっつもこうなるんでやんしょうねえ」


 「いっつもこうなるのかあ?」


 「ちょいと、あんな御人ごじんは、エルフでも人間でも、他に見たことねえでやんす」


 その答えに、ピオラがクスリと笑った。

 「嫌いじゃねえなあ、そういう人はよお」


 「はた・・から見てるぶんにゃあ、面白れえでやんしょうけど、いっしょにると疲れるでやんすよ、とにか……」


 そう云ったプランタンタンの足首を、いきなり藪の中から出てきた手がつかんだので、プランタンタンが絶叫を上げた。


 その声にピオラがすぐさま斧を振りかざし、藪を根こそぎ裁断すると……。


 酒樽を大事そうに横に置き、寝そべっていたペートリューがプランタンタンの足を掴んでいた。


 「なああああにやってるんでやんすかああああああ、もおおおおおおお!! ビックリしたでやんすうううううううううう~~~~~!!」


 泣きそうな声で、プランタンタンが抗議した。

 しかしピオラはむしろ感心して、


 「どうやって、気配を隠してたんだあ!? このアタシでも、全く気付かなかったよお! これなら、魔竜パガンゲドルからも隠れられるなあ!」


 どうやっても何も、ペートリューはまたも無意識の酒パワーで魔力を直接行使し、隠れていたのだった。


 「そんな状況でも、酒の入った樽をしっかり護るってえのは……いやはや、ペートリューさんらしいでやんす」


 プランタンタンが小さい嘆息と共に、ブルブル震えながらプランタンタンを見上げて薄ら笑いを浮かべるペートリューを見やった。


 「まあ、立ちなあ。もう魔竜パガンゲドルはいねえよお」


 子猫をひっつかむように、ピオラがペートリューの襟首を片手で掴んで立たせた。


 そこでペートリューが肩下げ鞄から水筒を出して酒を一気飲みし、ようやく震えを止めて、


 「よかったですう」

 と、声を発した。

 なにが良かったんだか……と、思いつつ、プランタンタン、


 「ピオラの旦那、しっかし、これで一安心でやんしょうか? もう、アイツは出てこねえんで?」


 「いやあ、分かんねえ。何匹いるのかも分かんねえし、もしあれが彼方の閃光の番人の差し金ならよお、バンバン来るんじゃあねえかあ?」


 「やれやれでやんす……」

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