第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-3-11 挟撃
「おっ酒え、無事だったあああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」
ペートリューが、起き上がって叫んだ。無意識に魔力を集め、楯としたようだ。
「そうだろうと思ってやんした! さ、離れて、ピオラの旦那の邪魔をしねえようにするでやんす!」
「う、うん、うん……!」
急いで距離を取ったが、
「あっ! プランタンタンさん! 上を……!」
ペートリューが木々の合間を見上げ、プランタンタンへ注意を促した。
プランタンタンも見ると、空は空で、先ほどよりずっと低く魔竜が飛んでいるではないか。
振り返ると、ピオラと魔竜が激闘を行っている。
「2匹、いやがったんでやんす! 上に注意をひきつけておいて、地面をアイツがあっしらを探していたってえ寸法で!」
「えっ……そんなこと、魔物ができるかなあ?」
「どういう意味でやんす?」
「誰かの命令か……操ってるとか……」
「誰かって、誰でやんす?」
「魔物を操れるのは、魔族だけですよ」
「ってえことは、ナントカの番人の魔族が、やっぱり!」
プランタンタンが云うや、ペートリューが血相を変えて酒樽を背負ったまま這うように藪の中に消えた。
「……」
プランタンタン、嫌な予感がして振り向くと、いまさっき上空にいた魔竜が、いた。
「自分だけ逃げるなんて、流石でやんすうううううううう!!!!!!」
わめきながら、プランタンタンも凄まじい速度でペートリューとは逆の方向に逃げる。
魔竜が、プランタンタンを追った。
激しく動くたびに全身のあちこちから真っ黒いガスが噴き出て、あるいはコールタールのような粘度の高い液体が飛び散った。そのガスや液体のかかった立木の部位が、成分に含まれる高濃度魔力により、高濃度酸かアルカリ性薬品をかけられたように腐食し、瞬時に死滅する。
さらに、プランタンタンめがけて、魔竜が頭部状の箇所よりその真っ黒な液体を噴きかけた。
明らかに、捕食行動ではない。純粋に、敵を打倒・滅殺する攻撃だった。
「たあああすけてくれでやんすううううううううう!!! 」
これまでストラのいない状況で、このような絶望的な敵の攻撃にさらされたことは、ほとんどない。あったとしても、タケマ=ミヅカやルートヴァンがいた。今は、誰もいない。プランタンタンは身を低くして遮二無二、森の中を走り抜け、藪や急峻な地形をものともせずにダッシュした。
すると、走りでは追いつけない魔竜が翼状の器官を広げ、密生する葉を落とした木々を押しのけて空中に舞った。
「グァルゥアアアアア!!」
ピオラの雄叫びが轟き、投げ戦斧がそれを打ち据える。
この大小の刃が5つも突き出た大戦斧は強力な魔法の武器であり、通常の敵に攻撃力+200、魔物には+350の効果があるばかりでなく、ピオラの思念で自在に操ることが可能だ。
高速回転する戦斧が緩い弧を描き、ホーミングミサイルめいて魔竜に突き刺さった。
魔竜の身体が半分近くも爆散、真っ黒い液体やガスをぶちまけながら、悲鳴をあげて斜面に落ちる。
「戻れえ!」
ピオラが命じるや、戦斧がブーメランと化して飛んで帰ってくる。
そのピオラの後ろから、いま打ち倒したと思った魔竜が飛びかかった。
だが、トライレン・トロールの装甲皮膚は魔獣の爪も牙も毒も通さない。ノーマルのトロールですら、強力な魔法の武器や激しい炎の攻撃以外はほぼ無効化するが、戦闘種族であるトライレン・トロールの防御力は、ノーマル種の20倍以上だった。
「ぬぅありやああああ!!」
魔竜のどこを掴んだのか判然としないまま、ピオラがその場で回転し魔竜を地面へ投げ飛ばしつけた。
そのまま体重を乗せて肘打ちを食らわせ、さらに馬乗りになってボゴボゴに殴りつける。和紙に墨を跳ね散らかすように、ピオラの雪のように真っ白な肌に真っ黒い肉片が飛び散った。
そこへ高速回転しながら戦斧が戻って来て、立ち木を裁断しつつピオラに迫った。
すると、ピオラがなんと瞬時に立ち上がってその戦斧をゲンコツで叩き落すや、直角に戦斧が軌道を変えて真下の魔竜に突き刺さった。
爆発するように魔力が弾け、魔竜の肉体が吹き飛ぶ。




