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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-3-10 急襲

 「な、何がおかしいんで?」

 「そうだなあ、聞いてみようかあ」


 ピオラは、恐怖の対象である上級魔族に聞いてみるなんてとんでもない(聞けるわけない)という意味で云ったのだが、それを真に受けて本当に「聞いてみよう」と云ってのけるその度胸や発想が、可笑しくてたまらなかった。


 (このエルフは、番人に会ったことねえしなあ……)

 笑いながら、ピオラはその番人の光る眼を思い出して恐怖した。


 「まっ、なんにせよ、それじゃあ、是が非でも彼方の閃光に辿りつかねえとなあ! すこおし歩くのを速めて……片道分の食い物が無くなる前には着きてえ。でもよお、魔竜パガンゲドルに襲われたらよお、あんたらを護る余裕はねえぞお。自分の身は、自分で護ってくれえ。せっかくここまで来たのに、死ぬんじゃねえぞお」


 ストラもルートヴァンもおらず、自分の身は自分で護れと云われても、逃げ隠れる他はない。


 プランタンタンは遠い眼になりながらも、


 「ペートリューさん、飲んでる場合じゃねえでやんす! 魔獣が襲ってきたら、自分の身は自分で護るんでやんすよ!」


 「えへええええ~~~~~~~~~~まじゅううううう~~~~~~?????」


 ペートリューは樽からトライレン・トロールの甘焼酎を水筒に移しつつ、移すより飲むほうが多く、完全に酔っていた。


 「だめだこりゃ、でやんす」


 だが、飲んでいるペートリューが「無敵の人」になるのはプランタンタンも分かっていたので、あまり心配はしていない。



 それから10日ほど、一行は急ぎつつも時には辛抱強く停滞を余儀なくされた。魔竜パガンゲドルが、執拗に山脈上空を舞い続けるのだ。


 「ちっくしょう、しつけえなああ」


 忌々し気に、ピオラが曇天を見上げてつぶやいた。立ちこめる低い灰色のキャンバスに、漆黒の影が浮き沈みしている。


 「どうやって、あっしらを探してるんで?」

 プランタンタンが、恐怖と辟易さが入り混じった表情で、ピオラに尋ねた。

 「よく分かんねえなあ。ふつうは、魔王の魔力を感じるんだろうけどよお……」


 「でも、ストラさんは魔力を使わない魔法を使うんですよ。なので、魔力を探知しているのではなさそうです」


 「それよお、魔力を使わない魔法って、どういうことだあ?」

 ペートリューの説明に、ピオラがその泉のように青く美しい眼を丸くした。

 「それはですねえ、それこそ、よく分かんないんですよ」


 云いつつ、ペートリューが水筒を傾けてゴクゴクと喉を鳴らした。

 「だよなあ」

 ピオラが、また上空を警戒した。

 「あの魔竜パガンゲドルとやらは、1匹なんでやんすか?」


 「そう、見えるけどなあ。でも、区別がつかねえんだよなあ、あいつらはよお。たまたま、1匹だけ見えてるのかもしれねえ」


 「厄介でやんすねえ」


 プランタンタンが嘆息したとき、また旋回してきた魔竜パガンゲドルが漆黒の翼で真上を飛んだので、首を引っこめて木の陰に身をひそめた。


 「ボロキレみたいですね……」


 箒のようにボサボサのガサガサな赤毛の隙間から魔竜パガンゲドルを見やって、ペートリューがつぶやいた。ゲドルというが、形状がそれっぽく・・・・・見えるというだけで、羽ばたいているわけでもないし、明確な頭部や四肢、尾があるわけでもない。ただ、真っ黒でボロボロの凧が飛んでいるように見える。


 「行っちまったでやんす……」

 プランタンタンが、ホッと息をついた。

 「さあ、急ぐぞお!」


 大木の影からピオラが踏みだしたその時、すっかり葉を落とした木々の隙間より滲み出るようにして、巨大な魔竜パガンゲドルが一行に飛びかかった。


 「ウグゥルゥォオァアア!!」


 怒りと戦闘体制で、瞬時にピオラの眼が蒼天色から真っ赤に変わった。巻き舌の雄叫びと共に魔竜パガンゲドルの頭部と思わしき場所を殴りつけて距離をとるや、腰の後ろに回している巨大多刃戦斧を右手に持った。


 「逃げろおおおお!!」

 云われるまでも無く、プランタンタンはもうその場からいない。

 「あひゃわひゃあわわわわ!」


 ペートリューが大きな酒樽を背負ったまま、硬直して立ちすくんだ。

 そのペートリューを、魔竜パガンゲドルの尾が横殴りに薙ぎ倒した。

 「ペートリューさん!」


 離れた場所から、プランタンタンが叫んだ。魔竜パガンゲドルに近づかないようにしつつ、ぶっ飛んだペートリューに回りこんで駆け寄った。


 「ペートリューさん、生きてるでやんすか!?」

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