第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-3-7 彼方の閃光
小さく震えながら、プランタンタンが切々とピオラを見上げ、哀願した。
「ほんとかよお?」
ピオラは、ヴォイイに尋ねた。
「分からねえ。分からねえが……タケミナカトル大明神様が、かつて世界中の魔王を倒してよお、神と成って世界を支えた時もよお、当時のニンゲンの国々はことごとく滅び、新たな国が起きたのは事実だあ。今度も、そうなるかもなあ」
「大明神様が、かあ……!?」
ピオラが、座り直した。
「あの魔王は、大明神様の次の大明神様になるってえのかあ?」
「そうかもしれねえ」
パチッ、と大きく薪がはじけた。
「どっちにしろ、行ってみねえと分かんねえ。魔王様は、魔力を使わねえっちゅうんなら、目覚めねえかもしれねえ。それでもいいのかあ?」
ヴォイイが、プランタンタンに尋ねた。
プランタンタンはゴクリと喉を鳴らし、
「い……いいでやんす。いや、いいもなにも、行ってみねえと分からねえでやんす。行かねえと、始まらねえでやんす。いや、どこに行くのかも、知りやあせんが……」
「彼方の閃光だあ」
ヴォイイが、据わった声でそう云った。
「……か……かなた……?」
プランタンタンが、眉をひそめた。
「そういう場所があって、そういう光が溢れているんだあ。その光に当たれば、どんな魔法の眠りでも醒めるとされているんだあ。ただし、眠りから醒めた後、おかしくなっちまったっちゅうヤツもいたらしい……」
それには、ピオラも驚いて、
「あの光によお、そんな力があったのかあ!?」
「し、知ってるんでやんすか?」
「みんな知ってるよお。ときどき、光るからなあ。でも、そんな力があったなんて、知らなかったなあ……」
「知らなくてもいいんだあ。無暗に行くところでもねえ」
ヴォイイの言葉にピオラもうなずいて、
「それに、おっかねえ、魔族の番人もいるしよお」
「ま……魔族でやんすか……!」
「そうだあ。おっかねえぞお」
「会ったことが、おありで?」
「一回だけあるう。死ぬかと思ったあ」
「そんなにでやんすか……?」
プランタンタンが、寒さではない震えに身をゆだねた。
「でも、わかったよお。大明神様が御代わりになるっちゅうんなら、あたしらは、ダジオンからいったん避難だあ」
「おありがとうごぜえやす!!!! おありがとうごぜえやす!!!!」
プランタンタン、泣きながら地面に額をすりつけた。
「その代わりよお、この魔王が大明神様になったらよお、あたしらをちゃーんと、護ってくれよお」
「もちろんでやんす!!!! あっしからも、この御恩はしっかりと、しっ……かりと!! ストラの旦那に伝えさせていただくでやんす!!!!」
「よおし、じゃあ準備して、さっそく昼から出発だあ!」
ピオラの住む洞窟に戻ると、ペートリューが目を覚ましていた。
「あっ、ペートリューさん、起きやあしたか。昼からさっそく、出発するでやんすよ!」
「えっ……どこに?」
「ナントカのカントカでやんす」
「よくわかんない」
ストラみたいなことを云い、ペートリューが半笑いで首をかしげた。
「それより、昨日のお酒……」
「酒は、ちゃんともってくよお! それにほら、2人ともこれを着なあ」
どこから調達したものか、分厚い毛皮の上着やズボン、履き物、手袋をピオラが差し出した。
「たまー~に、人間がここをおとずれるんだあ。そいつらのために、用意してあるのさあ」
ちょっとサイズが違うが、贅沢は云っていられぬ。
2人でそれを着こみ、
「えーと、お酒は……」
「好きなだけもってきなあ! もってけるぶんだけなあ!」
ピオラはそう云い、大きな背負子の木箱にストラを入れた。




