第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-3-4 ペートリュー復活
「さいでやんすか……」
ピオラが樽を地面に置き、栓を開ける。
2人とも気づかなかったが、それだけで、ペートリューがピクピクと動き出していた。
栓の穴に専用の注ぎ口を着け、樽を傾けて木のジョッキに豪快に注ぐ。確かに、果汁とも異なる、独特の甘い香りが漂った。
「おっっさけええええええーーーーーーーーーー!!!!! すっっっっごくすっっっっっっっっごくごくいい香りの、いままで嗅いだことのないいいいいかおりいいいいいいですううううううううううう!!!!!!!!!!」
死体のように冷たかったペートリューがいきなり飛び起きてそう叫んだので、ピオラが驚いて酒を少しこぼしてしまった。
「ああああああああああああああああああ!!!!!! もったいないいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!! 」
地面にこぼれた酒を舐める勢いだったので、あわててピオラが、
「いっぱいあるから、だいじょおぶだよお! さ、気付けに飲み……」
ピオラが差し出そうとしたジョッキを、やっぱり犬みたいに這いつくばったまま口だけをつけて、ペートリューがゴキュゴキュと飲み始めたので、
「おおおわあああ! このヒト、すっっげええなあ! ニンゲンなのに、あたしらみたいにそのまま飲んでるよおお!」
「ああああっっっっまあああああーーーーーーーーー~~~~~~~~~~いいいいい!!!!!! おおおおおいいひぃいいいいいいい!!!!!!」
地獄から天国へ来て甘露を飲んだ亡者のように、目をむいたペートリューが昇天しそうな勢いで叫んだ。
「もっと飲むかあい?」
ピオラが喜びつつ、面白がって酒を注ぐ。
「飲みますうううううううううううもちろんんんんんんんんん飲みますうううううううううううううううう!!!!!!!!」
ペートリューがジョッキを奪い取り、ピオラが注ぐままに一気に3杯飲んだ。
そこで、さすがのピオラも動揺して目が泳いでくる。
「お、おいおい、このヒト……ホントにニンゲンなのかああ?」
プランタンタンにそう云うが、プランタンタンはすましたもので
「人間か人間じゃないかというと、きっと人間でやんす。ただ、酒という酒を飲みつくされねえようにしたほうがいいでやんす」
「マジかよおおお」
ピオラは急に楽しくなり、
「さ、さあ、もっと吞みなよお、身体があったまるよお!」
「いっただきますううううううう~~~~」
それから、木のジョッキで延々とピオラとペートリューが仲良く飲み始めたので、プランタンタンが呆れ果ててその光景を眺めた。
ちなみに、ペートリューは無意識で潜在魔力を直接使用し、闇を見通して、言語変換も行っていたが、無意識なので当人も気づいていない。(なお、プランタンタンとピオラも気づかないというか、気にもとめていなかった)
(やれやれでやんす……)
プランタンタンがムチャムチャと肉を頬張りつつ、ペートリューが寝ていた横に寝かされているストラを見やった。眼をつむっているように見えるが、実はうっすらと開いていて、その象嵌めいた硬質な眼が見える。
その眼が、半眼に開いてプランタンタンを見つめたような気がして、プランタンタンはアッと思って立ち上がりかけたが、気のせいだったものか……ストラは変化なく横たわっていた。
(旦那あ……ストラの旦那あ……あっしを、根本から救ってくだすった超超超絶大恩人……絶対に、絶対絶対に絶対に……御恩返ししやすからね……)
決意を秘めた眼で横たわるストラを見つめていたプランタンタンだったが、いつしか涙ぐんで視界がにじんだ。
プランタンタンは勝手に寝てしまったが、ピオラとペートリューはほぼ夜通し飲み続けたようだった。
ピオラはその言の通り、寝不足以外はけろりとしていたが、ペートリューは酔いつぶれてストラに覆いかぶさるようにしてピクリとも動かなかった。
「やっぱりニンゲンだあ、酔っ払ってるものお」
当たり前である。蒸留酒を樽ひとつ半、飲んだ。普通の人間なら、急性アルコール中毒で死んでいる。
ピオラは、ペートリューを木の皮や枯草で造ったベッド……と、云えば聞こえは良いが、家畜の敷き藁のようなもの……の上に転がすと、ストラを担いだ。
「さあ、巫女様のところに行こう。魔王を、目覚めさせるんだろお?」
「おねげえするでやんす!」
朝方、洞窟の外はいよいよ気温が下がっていたが、トライレン・トロール達は男も女も、子ども達もやはり半裸でウロウロしていた。




