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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-3-3 カゥrrラッkkッレッ

 「すぐに焼けるよお!」

 ピオラが、にこやかにそう云う。


 「分かるよお! トロールは、ニンゲンやエルフを襲って食うからねえ。でも、あたいらトライレン・トロールは、ニンゲンやエルフなんか食わねえし、肉を生でも食わねえんだよお」


 プランタンタンが息を飲み、


 「そ、そうでやんしたか……! こいつは、お助けいただいたってえのに疑っちまって、たいへん失礼をぶっこいたでやんす」


 ペコペコと座ったまま頭を下げたのを見て、ピオラが満面の笑みとなる。

 「いいんだよお! あんた、素直でいいやつだあ」


 云いながら木串を1本とり、ナイフで肉をプランタンタンの膝の上のまな板に置いてやった。


 「生で喰わねえといいつつよお、焼きすぎるとカタイんだあ、この肉はさあ。あたしらはいいけど、エルフにゃあ、かじるのはむりだあ」


 「へ、へいっ! おありがとうごぜえやす!」


 プランタンタンが腰の雑用ナイフを出し、串で押さえつつ熱々の肉を切りわけて口に運んだ。


 ハフハフと咀嚼し、


 「……うめえ、こいつあ、うめえでやんす! ゲドルの肉が、こんなにうめえなんて、まったくもって知りやあせんでした!」


 ピオラも嬉しそうに、串を持って肉を頬張る。

 「エルフは、ゲドルを喰わないんだあ?」

 「へえ! ゲーデルのゲドルは乗り物なんで、喰わねえんでやんす!」

 「そうなんだあ」


 云いつつ、ピオラがチラッとストラの横に寝かせているペートリューを見やった。2人ともまったくの暗闇でも目からそれぞれ異なる種類の特殊な光を発し、完全に物が見えるが、焚火の明かりにストラとペートリューが照らされている。


 「魔王は魔法で眠らされてるちゅうことだけど、もう1人の御仲間は、大丈夫かなあ」


 云いつつ、ピオラは抱えたときにペートリューも氷のように冷たいことを分かってた。ストラは良いかもしれないが、たぶんペートリューはダメだ。そう思っていた。しかし、プランタンタンの手前、それは口に出さなかった。


 「なあに、でえじょうぶでやんすよお。ペートリューさんは、酒の匂いを嗅がせれば、たとえ本当におっんでても、起き上がるでやんす」


 肉をかじりながら、プランタンタンがそう云いきったので、

 「酒だってえ?」

 ピオラも半笑いで、


 「酒なら、いくらでもあるよお。あたしらも、酒をよく飲むからねえ」

 「そうなんでやんすか?」


 「もうちっと山奥で、木の汁を(かも)して造るのさあ。けど、人間にはちぃいっと、強いかなあ」


 「へえ? 木の汁から? 変わってやんすねえ」


 この世界の北方や標高の高い山に、トライレン・トロール達が「カゥrrラッkkッ」と呼ぶ、樹液に異様に糖分を蓄える何種類かの木がある。我々の世界でも、メープルシロップを作るのに特定の種類の木の樹液を使うが、似たようなものだろう。


 そのカゥrrラッkkッの樹液を発酵させ、異様に濃いどぶろく・・・・のようなものをさらに蒸留して作るのが、トライレン・トロール特製の「カゥrrラッkkッレッ」という酒だった。なお、このカエルの声みたいに聴こえる酒も便宜上、そう標記しているが、人間やエルフには発音不可能である。


 「ニンゲンは、ものすごく薄めて飲む人もいるけど、かなり甘いみたいで、あんまり評判はよくねえなあ」


 蒸留酒なのに甘いというのは、醸造や蒸留の技術が不完全で、未発酵の糖分が大量にまじるからだった。


 「へええ」

 「アンタも、ってみるかい?」


 「けっこうでやんす。いえ、あっしだけじゃあなく、エルフっちゅうのは、あんまり強い酒は飲まねえんでやんす」


 「そうかい。ゲドル肉に合うけどなあ」

 「ピオラさんは、飲まねえんで?」


 「いま、出そうと思ってたとこだよお。ちょうどいいやあ、この人に、嗅がせてみっかなあ」


 ピオラが立ち上がってノシノシと洞窟の奥に向かって歩き、すぐに大きな樽を肩に担いで持ってきた。


 「まさか、それをぜんぶ飲むんでやんすか?」


 「飲もうと思ったら飲めるけど、あたしらは、どんだけ飲んでもそんなに酔っ払わねえから、意味ないんだよなあ」


 「薄めて飲むんでやんすか?」

 「まさかあ、薄めるくらいなら、さいしょから水を飲むよお!」

 ピオラが笑ってそう云い、プランタンタンが呆れながら苦笑した。

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