第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-2-22 拠点
「神の子によると、イジゲン魔王というのは少し変わっていて、魔力を使わずに魔王に匹敵する魔法を使うらしい」
「どういうことですか?」
藩王の後を歩く5人が、一様に眉をひそめた。この世界の人間にとって、至極当たり前の反応だった。
「わからん」
当のドゲル=アラグも、自分で云っている意味が分からない。
「ゆえに、神の子にも、イジゲン魔王がいまどこにいるのか、わからんそうだ」
「それは……!」
「だが、海の彼方での戦いで意識を失い、行動不能になっている……とも」
「えっ」
「今のうちに探し出し、捕らえて神の子に差し出すのだ。あとは神の子が封印するか、配下にするか、殺すか……それは知らん」
「ハハッ」
「全土に触れを出し、イジゲン魔王の配下と思わしき帝国人は、全て捕らえろ。王都に入ったあの2人も常に監視し、イジゲン魔王と連絡をとるのを待て」
「泳がせておけ……と?」
「そうだ」
「畏まりまして御座りまする」
そうとも知らず、無事に王都オーギ=ベルスに入ったルートヴァンとフューヴァ、早々に下町に小さな空家を見つけ、大家に大金を払うと買い取ってしまった。
「豪気な話だぜ」
見慣れぬ内装を見やって、フューヴァが半ば呆れつつ感心した。
「借家はね、大家の監視があるからだめだ」
「なるほどね」
「まず、すこし落ち着いて……スーちゃんを探そう。キレット達と、引き続き連絡をとって」
「ストラさんを、どうやって探すんだ?」
「これを覚えてる?」
ルートヴァンが懐から出したのは、小さな蒼い羽の飾り物だった。
「あっ……これは」
「スーちゃんが別れる際、僕に託してくれたものだ。これを使って、探せとおっしゃられた……」
「どうやって使うんだ?」
「それは、これから考えるよ」
「なんでえ」
土間を見渡し、フューヴァ、
「それより、これは石炭ストーブかよ?」
そう、声を上げる。
「なんで、床下に埋まってるんだ?」
つまり、それは熱を床暖房に利用するオンドルのようなものだ。寒さの厳しい地方ならではの、設備だった。
「ぜんぜん使い方がわからねえぜ」
当然、フューヴァは初めて見た。
「普通は大家に使い方を聴くんだけどよ、買い取っちまったらもう他人だぜ」
そういうのもあったか……。と、ルートヴァンが顔を微妙にしかめた。いきなり買い取ったのは、拙速だったか。
「ルーテルさんの魔法で、アタシも言葉がわかるから……買い物がてら、近所のやつに使い方を聴いてくるよ」
「すまない、ありがとう」
フューヴァが出て行ってから、ルートヴァンが息をついた。
「まず……は、うまく拠点を作れた……か」
そう思いつつ、いやな予感もぬぐえない。
(おそらく……僕はもう、この国の魔王に知られている……)
それが、この旅と魔王との戦いにどのような影響を及ぼすのか、想像もできなかった。
3
ピオラは、ストラを抱え、獲物の巨大な竜を半分引きずっているくせに、歩くのがとても早かった。
山歩きはプランタンタンもお手の物なので、燃料も無いペートリューだけが、どんどん遅れがちになる。
やがて、降りしきる湿ったボタ雪が前も見えなくなるほど酷くなり、さらには横殴りの吹雪になった。
「ペートリューさん、しっかりしてくだせえ! せっかく助かったのに、死んじまいやすよ!」
後ろを気にしていたプランタンタンが、いつの間にかばったりと取れ伏しているペートリューに気づき、慌てて戻って助け起こした。




