第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-2-21 番人の死
と、ルートヴァンの逆襲!
超高速行動相当から繰り出された、大上段からの打撃を、ラクショオークが魔力の壁で防いだが、それを砕き割って脳天に杖が迫った。もはやただの白木ではなく、超高濃度凝縮魔力の棒状武器だ。
(クソが!!!!!!)
ラクショオークは咄嗟に両腕へ魔力を凝縮し、頭上で交差して防御したが、打撃はその腕を粉砕しつつ脳天を直撃し、下あごを残して頭蓋を爆裂せしめた。
が、脳も心臓も無い魔族は、それだけでは死なない。瞬時ではないが、復元もする。
腰砕けに体制を崩したラクショオークめがけ、ルートヴァンは杖を手繰って持ち帰ると、横殴りに胴体を打って追い打ちをかけた。
その攻撃をラクショオークが足を上げて蹴りで防いだが、超魔力凝縮刃が薙刀のように突き出て、ラクショオークの右足の膝から下を切断した。
さらにルートヴァン、地面に倒れたラクショオークめがけてさらに手繰りよせた杖を振りかぶり、一足飛びに叩きつける。
ラクショオークめ、倒れたまま残った左足を突き出してそれを防御。
左足がワニのような生物に変化し、大口を開けて杖にかみついた。
「……こなくそ!!」
ルートヴァンが、ありったけの魔力をヴィヒヴァルンから引き寄せた。人間の扱える魔力の限界に近い。
ラクショオークの左足が爆裂し、そのままルートヴァンは魔力を塊をラクショオークの胴体めがけてつきつけた。
心臓の下辺りの魔力中枢器官を粉砕し、胴体がひしゃげ潰れた。
もう、全身が粉微塵に粉砕され、ラクショオークは土埃と共に風に散って消えた。
魔力供給を終えたルートヴァンが、ドッと尻餅をついた。
「ルーテルさん!」
バリアも解け、敷物を飛び降りたフューヴァが駆け寄った。
「大丈夫かよ!?」
「大丈夫だよ。ありがと、フューちゃん」
「なに云ってんだよ!」
フューヴァが、涙をぬぐう。
ルートヴァンも、そんなフューヴァが異様に愛おしく、少し涙目になった。
「しかし、あんな番人がいるというのは、少し想定外だったね。王都の連中に、潜入がバレバレだ」
ルートヴァンが、苦笑しながら云った。
「そうかもな」
フューヴァも笑う。
「でも、いいじゃねえか。イジゲン魔王様の御通りだぜ。出迎えてほしいくらいだ。まだ、手下しかいねえけどな」
「そうだね!」
ルートヴァンも、乾いた笑いを荒野に響かせる。
その通り、ルートヴァンとラクショオークの戦闘を城の尖塔の上から観戦する者達がいた。
ガフ=シュ=イン藩王と、その幹部たちだ。
すなわち、藩王ドゲル=アラグ=ガウ=ガフシュ、第1王子ガミン=ドゲル=ガウ=ガフシュ、宰相アイト=ズム=ガウ(王族)、大元帥リザキ=ラチノ、近衛将軍レザル=ドキ=ガウ(王族)の5人である。
みな遠眼鏡で荒野を凝視し、
「陛下、あれがその、ナントカ魔王ですか?」
「違うらしい」
「はあ……」
藩王ドゲル=アラグは、もう尖塔から退出しようと踵を返した。
「あ、陛下……」
「よろしいので?」
「寒いだろう」
「い、いや、そういうことではなく」
ルートヴァンを、このまま王都に潜伏させてよいのか、という意味だ。
「かまわん。それより、イジゲン魔王だが」
「ハッ」
暗い尖塔の階段を下りながら、藩王のすぐ後ろから王太子がその声を聴き逃さすまいと神経を集中する。




