第2章「はきだめ」 2-4 個室
ランタンの光に脂ぎった背中を照らし、ピクリとも動かないので、誰かが起こしに行き、そう叫んだ。
「う……」
そして、一同がストラに気づく。半眼のままのいつもの鉄扉面でゆるく右腕をもたげ、死んだ蛮族が立っていた場所に向かって、人指し指を向けている。何のことはない、極小不可視ながら高エネルギー体であるプラズマ球を強力な電磁波で操り、蛮族の脳髄にぶちこんだまでだ。球電が超高出力電子レンジめいた高周波として弾けて脳幹が煮え、一瞬で絶命した。
「こ、こいつ、なにを……」
「こちらのストラさんはなあ、凄腕の魔法戦士なんだ。伊達にガンダを再起不能にして、フィッシャーデアーデに乗りこんできたんじゃない。アタマの悪ぃ力任せの戦いはしないんだよ!」
フューヴァの啖呵で、大部屋の空気が、完全に変わった。
「ま……魔法だと……!!」
「どうりで……!」
威勢よくフューヴァにつっかかっていた若者も、いつのまにか下がって人垣の後ろにいる。
「い、いまのは、暗殺の魔法か!?」
誰かが叫び、ストラがそっちの方を向くや、
「すみません」
小さい声が響く。
「さあ、ストラさんの場所を空けてもらおうかい」
腰に両手を当て、肩で風を切りながら上向き加減に顎でどけるように指図して、フューヴァが細く光る眼を向けた。
「クソが、偉そうに、虚言癖の売女め……!」
「なんだって!?」
「なんでもねえ」
「フン……」
フューヴァが小鼻で笑う。
「そんなことより、暗殺魔法もお手のもんのヤツなんかと、いっしょにいられるかい!」
「そ……そうだ、そうだ!」
「そんな強いんなら、個室にご案内しろや!!」
いきなり部屋中がそんな大合唱となり、プランタンタンやフューヴァも視線を向けたものだから、案内係がガタガタと震えだして、
「ちょ、ちょっと待ってろ……!」
走り去って、すぐに戻ってきた。
「こちらです」
案内係、ペコリとお辞儀をして、ストラを案内した。すぐさま(まだグビグビ飲んでいる)ペートリューが続き、プランタンタンも鼻唄まじりに続く。最後に、男共を小馬鹿にした薄ら笑いと一瞥を残して、フューヴァが部屋を出た。
そんなフューヴァに、男共は腸が煮えくりかえるようだったが、大いに安堵したのも確かだった。異様な緊張が解け、
「おい、だれか他の係のやつ呼んでこいよ」
「このバカの死体を、どうにかさせろ」
誰かが、部屋を出た。
最初に、フューヴァへつっかかっていた若いやつに、
「おまえ、運がよかったな」
やはり、誰かがそう声をかけた。
四人が通されたのは、貴賓室のように広く豪華な個室だった。四人が入っても、余裕で広い。大きなシャンデリアがあって、何本……いや、何十本も大きな蝋燭が燈っている。ランタン、ランプが至る所に十数個も並んでいて、充分に明るい。
ここは、総合ランク五位までが入ることのできる特別な部屋だ。
案内係はどこかへ行ってしまい、正装したヒゲの中年男性が現れた。
「ストラ様、出番は、メインの前……あと二時間ほどでございます」
「相手は誰なんだい?」
代理人のフューヴァが聴いた。
「ゴハール様です」
「ゴハールか……」
「では……お時間になったら、お呼びに参ります」
男性は行ってしまった。
「やあれやれ、やっと少しは落ち着けるでやんす」
豪華な椅子に、プランタンタンが足を投げ出して座った。
ペートリューも息をつき、ちょこんと座って性懲りもなくゴクゴクと水筒を傾けている。
プランタンタンが口をへの字に曲げてその様子を眺め、フューヴァはぼんやりと首を傾げるストラに声をかけた。
「ストラさん、対戦相手のゴハールってやつは……」
「なんだっていいでやんす。どうせ、勝つんでやんすから」
「ええっ?」
流石にフューヴァが驚いて、プランタンタンを見やった。
 




