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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-2-20 精神の力

 (あいつの直接攻撃など、防ぐのは容易い……問題は、あの極低温の防御だ!!)


 避けるか、防ぐか、攻撃を防御に変えるか……方法はいくらでもあるが、最優先すべきは。


 ルートヴァンは20メートルほど離れているフューヴァにめがけて超短距離転送をかけ、ほぼ瞬間移動するとフューヴァごと強力な魔力で5重に2人を包み、バリアとした。


 ラクショオークが地表に激突すれすれで急カーブを描き、水平飛行に移るや一直線にルートヴァンに吶喊する。


 フューヴァが何が起きているのかを認識する前に、もうラクショオークが猛悪的な魔力凝縮のパワーユニットめいた手甲をまとった右手で貫き手攻撃をバリアに突き刺した。


 さすがに濃レモン色のシンバルベリル、まともにその攻撃を受けていれば、5重バリアの内3枚は砕かれていただろうし、残りのバリアではその直後の極低温ブリザード攻撃を防げていたかどうか。


 ルートヴァンは瞬時にバリアを移動かつ変形させ、グニャリとバリア自体を歪ませると、ラクショオークの攻撃を滑るように受け流した。


 (なんだって……!!)


 心中でラクショオークが驚愕した時には、飛びながら突っこんだラクショオークは体制を崩して右肩からバリアに衝突し、かつ吶喊の威力を殺されつつバリアの弾力に跳ね返されていた。空中で変な方向に回転し、自分の極低温攻撃に自分から入っていった。


 自らの魔力による攻撃でも、その効果は無効化にはならない。

 渦巻く極低温に曝され、ラクショオークの全身が瞬時に凍りついた。


 いまルートヴァンが攻撃すれば、ラクショオークは粉々に粉塵爆発するだろうが、ルートヴァンもそれどころではない。


 より強力なバリアを展開し、極低温を耐える。ただバリアを厚くするのではなく、5重バリアのバリアとバリアの間の空気を抜いて真空状態にし、熱伝導を防いだ。ヴァルンテーゼ魔術学院では、魔術実験の副産物で真空とその特性を発見しており、魔術に応用している。


 また、当然ラクショオークも、自分の攻撃に巻きこまれても良いよう、元から強力な魔力防護を施している。


 ただ、まともに食らうのは想定外だったが。

 体表面が多少、凍りついただけで、ラクショオークは無事だった。

 もちろん、ルートヴァンもだ。


 水分ではなく空気を組成する酸素や窒素が液化して霧のようになり、そこへ周囲から空気が吹きこんでまた気体に戻る中、凍りついたルートヴァンのバリアも透明を取り戻した。


 「な……なんだ、なんだ!?」


 そこでようやく、敷物の上のフューヴァが我に返った。まだ浮かんでいる敷物の前に立つルートヴァンの背中を見やり、


 「ルーテルさん、いまのは!?」


 「ちょっと、面倒なやつだっただけだよ、フューちゃん。ちょっとだけ、ね。僕の敵ではないことに、変わりはないんだ」


 「いやっ……そうなのかもしれないけど……よ……」


 フューヴァが、ゆっくりと、かつ大仰に歩いてくるラクショオークを、バリアを通して凝視した。


 (やべえな、完全にアタシがアシを引っ張ってやがるぜ……!!)

 フューヴァが、奥歯をかむ。

 かと云って、こんな程度でルートヴァンに、


 「アタシにかまわねえで、戦え!」

 などと云うのは、最大の侮辱だ。


 (チッックショウ、ストラさんがいねえと、とたんにこれ・・だぜ!!!!)

 涙が出てくる。


 が、そんなものは、ギュムンデでストラについてゆくと決めた時から、分かりきっていた。


 フューヴァは何も云わず、ただ敷物に胡坐をかいてどっかと座り、腕を組んでフン、と鼻から大きく息を吐いて、ルートヴァンに全てを任せた。


 「アタシを護りながらあんな雑魚を倒せねえようじゃ、とうていストラさんの片腕なんか務まらねえぜ」


 とでも云わんばかりに。

 ルートヴァンはそれが嬉しくて嬉しくて、感極まった。

 (ありがとう……フューヴァ……)


 そうなると、人間は強い。

 精神力の充実は、肉体の限界を凌駕する場合がある。

 精神構造の異なる魔族には理解もできず、真似もできない。


 フューヴァを護るバリアを5重から8重にし、ルートヴァンがバリアから飛び出た。

 身構えつつ、ラクショオーク、

 (なんだ!? 魔力が格段に跳ね上がったぞ!?)


 濃度にもよるが、単純に赤色シンバルベリルの魔力量は黄色級の数千から数万倍にもなる。


 それを、人間ごときが扱えているのが不思議でたまらぬ。

 (やっぱりこいつ、改造人間に違いない!!)

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