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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-2-19 荒野の対決

 が、ルートヴァンは術式を通さず魔力から直接効果を引き出し、高速化、肉体強化、さらには各種攻撃魔法を同時行使する。その速度や攻撃力、防御力は、上級魔族に匹敵する。


 高速化のまま、ラクショオークがルートヴァンをズダズダに引き裂こうと、物理的に形状を持つまで凝縮した魔力の爪を乗せた掌打を叩きつける。もっともこの威力では、引き裂くどころか細切れに粉砕するほどだった。なんだかんだと、ルートヴァンの挑発に怒っているのだ。


 (人間など、いくら強力な魔術師と云えど、動きがノロマすぎるんだよ!!)


 だが、ルートヴァンは得意の杖術。白木の杖に、魔族と同等の魔力を乗せて強化し、パッと船のオールを持つような形で柄を持ち替えて体を開くや、掌打を下から掬い上げるようにしてかわすと同時に杖の先でラクショオークの顔面(正確には眼)を突いた。


 突いた、と云っても、杖先には魔力の刃が突き出ている。


 並の魔族なら顔面ごと脳天を破壊されるところだが、ラクショオークは人間でいえば鼻血を出した程度で済んだ。


 「…ギャゥッ……!」


 ラクショオークが仰け反ったところを、ルートヴァンが至近から爆裂魔法をさらに凝縮し、魔法の矢を突き刺すようにその胴体に放つ。さらに爆破の威力が一点集中し、戦車の装甲を貫くヒート弾めいてラクショオークの胸に食いこんだ。


 だいたいその辺りに、魔力中枢器官があるのだ。

 そこを破壊すれば、魔物・魔族など勝手に肉体が崩壊する。


 だがラクショオークは魔力を凝縮した強力な楯を作って、爆裂火矢を防いだ。


 それでも、魔力の楯に大穴が空き、爆発の威力でラクショオークは10メートルが後ろにぶっ飛んだ


 荒涼とした大平原に、雷が落ちたような爆音が響いたが、反射する物が何も無いので、すぐに風の音に呑まれて消えた。


 (こっ、こいつ! 何者だ……!? こんな人間が、この世に!? 人間だよな!?)


 瞳の無いクリームイエローの眼を驚愕にゆがめ、胸を押さえて、ラクショオークがルートヴァンを凝視した。


 (まさか、ヴィヒヴァルンの新たな魔王が、人間を改造したのか……!?)

 ラクショオークの発想では、そうなった。

 もちろん、そんなわけはない。

 片やルートヴァン、


 (王都の番人というから、ランヴァールを支配していたヤツほどの力もあると思ったが……そうでもなさそうだな。もっとも、濃い藍か薄黄色程度のシンバルベリルは、体内に隠していそうだが……)


 ランヴァールを支配していたヤツ……とは、もちろんバ=ズー=ドロゥのことである。


 「時間稼ぎにもならんな!」


 杖を手槍に構え直したルートヴァン、浮遊と推進、高速化の術式効果を直接魔力から取り出し、ストラや他の上級魔族がそうするように、低空を一直線にラクショオークめがけて飛んだ。


 さらに、攻撃魔術効果を同時使用。

 その準超高速行動セミ・ハイマニューバ相当の速度から、爆裂魔術効果が飛ぶ。

 「うわあああ!」

 思わず、ラクショオークが悲鳴を発した。


 複数の爆裂魔力弾がラクショオークにドガドガと降り注ぐのとほぼ同時に、ラクショオークが飛翔して脱出した。


 同等の高速化中のルートヴァンは、もちろん把握している。

 (真上に逃げるとは、やはり魔族はばか・・だ……!)


 ルートヴァンほどの相手と、戦ったことが無いのだろう。そこまでの敵が、王都に現れることは無かったのだ。


 地面すれすれを飛びながらルートヴァンが杖を振りかざすと、対空ミサイルめいて魔法の矢が9発ほどもラクショオークを高速で追った。


 「なんだ、こいつ!!」


 ラクショオークが歯ぎしりし、ついにその胸元にその眼と同じくクリームイエローのシンバルベリルを出した。


 魔力が倍増し、近接する魔法の矢めがけて、強烈な冷凍効果を浴びせる。絶対零度とまではゆかないが、マイナス200℃はある。


 そもそもエネルギーの塊である魔法の矢がそのエネルギーを奪われ、凍結して地面に落ちるか、空中で形を保持できず霧散した。


 (ほう……)

 ラクショオークを追いつつ、ルートヴァン、

 「やっと本気を出してきたか?」


 そうつぶやいたとたん、ラクショオークが上空で反転、急降下爆撃機めいてルートヴァンに突っこんだ。


 その周囲に、猛烈な凍気を振り撒きながら。


 既に気温は日中でも一桁だが、温度差で乾燥した大気が歪み、渦を巻いて風が流れに吹きこんで、竜巻のようになってラクショオークの背後に伸びた。


 ラクショオークの直接攻撃の後に、そのほぼ全ての原子を止めるほどの極低温の竜巻が襲う、最終奥儀である。

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