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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-2-10 初冬の平原の旅



 転送魔法で一気に数十キロを進んだ2人、まずは本街道の手前ほどで笑い転げた。


 「連中の顔が、見たかったぜ!」

 「見たって、なんの価値もないさ」

 「まあな」

 「今日は、あと適当に歩いて、適当に休もう」

 「天幕張っても寒そうだな」


 フューヴァが身震いする。北から吹きつける風が異様に冷たいし、なによりこの大地は放射冷却現象で異様に気温が下がる。晩秋ですら、そろそろマイナスになる。厳冬期は、マイナス50℃もざら・・


 「魔法がある。ラペオン号で使ってた、寒さをしのぐやつさ」

 「いいねえ」

 「他に歩いているやつもいないし、今日はゆっくりできそうだね」


 ルートヴァンがそう云ったとたん、また警戒魔法の警告音が鳴り渡った。

 「なんだよ、今度は魔物か!?」

 「……そうみたいだ。見なよ」


 ルートヴァンの視線の先に、大きな四つ足の動物の群れが見えた。10数頭はいる。


 「ありゃあ、ウルゲリアで森のエルフどもが使ってて、プランタンタンが逃がしたヤツか?」


 額に手を当ててフューヴァもそれを確認し、驚いて高い声を出した。

 狼竜ベゲットだ。


 「それの、親戚だろうね。こんな隠れる場所も無い場所に、野生であんなのがいるんじゃ、盗賊以前の問題だ。すごい国だよ、まったく」


 云いつつ、ルートヴァンが歩き出す。

 「あいつらくらいなら、僕が追っ払えるさ。行こう、フューちゃん」

 「ああ」

 フューヴァが、狼竜ベゲットの群を振り返りながら、ルートヴァンに続いた。



 それから数キロも進んで、支道が本街道に合流した。太く大きな街道にも、誰もいなかったが、行く先の王都方面に隊商らしき影が見えた。かなり大きい。100 人近くは人がおり、毛長牛ゲルクも数十頭はいるだろう。


 「あんなのを見ると、王都に向かってるなって思えるね」

 ルートヴァンが感慨深げにそう云うが、フューヴァは感慨も何もなかった。

 「メシにして、今日はもう休もうぜ、ルーテルさん」

 「まだ、明るいよ?」

 「暗くなってからゴソゴソ動いてたら、目立つだろ?」


 確かに。ルートヴァンの照明魔法で作業をすることになるのだろうから、目立つ。また、はなから魔法を当てにして、かさばるランタンは買ってない。


 (念のため、姿隠しの魔法を……)


 もう、2人が装備ごと見えなくなる。ついでに防寒の結界も張り、なるべく火を使わなくても良いようにする。これなら、照明の魔法も遮ることができる。


 「メシっつっても、揚げ干しした石みてえなパンと、例の硬くてマズイ肉の煮干しだけ……か」


 云いつつ、食欲旺盛にフューヴァがそれらをかじった。

 「マジでかてえぜ!」

 かじりながら、豪快に顔をしかめる。

 「この国の連中、よく歯が折れねえな!」


 「少しずつかじって、口の中で柔らかくするしかないよ。もしくは、ナイフで薄く切りながら食べるか」


 フューヴァ、宿の食堂で、とても食器とは思えぬ大型ナイフを使ったのを思い出す。


 それが答えだった。

 「なるほどね」


 雑用ナイフを使い削り節めいて肉を薄く削り、同じく薄切りの堅パンに挟んで食べると、まあまあだった。あと、異様にしょっぱくてこれも石みたいな毛長牛ゲルクのチーズもある。


 「早く王都に行きたいね。王都なら、さすがにもう少しマシな食べものもあるだろうさ」


 「だと、いいけどな」

 フューヴァは、まったく期待していなかった。

 貴重な水を舐めるように飲み、その日は早く休んで、翌日は早朝から移動した。


 「うわっ……寒いってもんじゃねえな!」

 暁闇、生まれて初めて体感する氷点下に、フューヴァの歯の根が鳴った。

 「魔法が無いのに、平気なんだな、ガフ=シュ=イン人てのは」

 「生まれてからずっとこの環境じゃ、嫌でも慣れるさ」


 また、この世界の人間には、どこの土地でも当たり前の話だったのでいちいち口に出さなかったが、ようするにこの環境に慣れない者は早々に死ぬので、平気な者だけが生き残っているだけだ。


 「さ、行こう。とっとと王都に入りたい」

 また、転送魔法でぶっ飛んで距離を稼ぐ。

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