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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-2-9 やけに足が速い

 部屋に戻り、落ち着いたところで、ルートヴァンが魔術の小竜を出した。

 おっ、とフューヴァが小さく声を発した。


 「念のため、キレット、ネルベェーン、そしてペーちゃんには、首飾りに仕立てた、魔力を辿ることのできる道具を渡してあるんだ。こいつは、それを辿って、ますキレットとネルベェーンに接触してもらう」


 「へえ、すげえな。えっ、じゃあペートリューとプランタンタンは、無事なのかよ!?」


 それには、ルートヴァンが目を伏せて首を振った。

 「ペーちゃんは辿れない。よほど、遠くにいるみたいだ」

 「そうなんだ……」


 まさか、まだゲベロ島にいるんじゃねえだろうな、と思ったが、フューヴァは恐ろしくて口に出せなかった。


 「で、まずキレットのところに向かわせようと思っている」


 伝達の魔法は普通はカラスなので、ルートヴァンが猛禽類や小竜ゲドルを使うのに少なからずフューヴァは驚いていたが、敵の妨害魔法で同じような猛禽類や小竜ゲドルに襲われた場合の対応策の為、という事実にも驚いていた。


 「どれくらいでつくんだ? 遠いのか?」


 「感覚だと、こいつで片道1日半から2日ってところかな。こいつは魔術だから休みもしないし、眠りもしない。一直線に飛んでくよ。相互通話の魔法だから、行けば話せるさ」


 「へええ……じゃ、キレットから返事が来るのは、アタシらが街道を進んでるころだな」


 「そうなるね。さ、行け!」


 宿の木窓を開け、ルートヴァンがそう命じると、猫ほどの大きさの青黒い竜がするり・・・と壁を伝って窓から外に出た。


 それから2人は就寝し、翌朝、また同じ朝食を無理やり胃に収めると、女将に別れを告げた。


 毛長牛ゲルクを手配したフリをして余計な心配をかけぬようにして、2人は素早く街を出た。



 やはり、こういう・・・・街なので、いかに気をつけて街を出ても、もう宿から尾行されていたのだろう。この郡都ル=サロから本街道へ向かう支道に入った途端、警戒魔法の警告音が鳴り渡った。


 かといって、後ろを確認し、周囲を見渡しても、誰もいないのである。


 いや、同じような隊商が、ゆっくりと遅れて街から出てきた。毛長牛ゲルクが7頭、総勢5人ほどの小さな隊商だ。


 「え、まさか、あいつらが!?」


 流石に、フューヴァが驚いた。どこの誰なのかも分からないが、見た感じ、いっしょに旅をするような、本当に普通の商人たちだ。武装すらしていない。


 「つまり、武装する必要が無いんだ。あいつらが、盗賊なんだから」

 ルートヴァンが、そう云って笑った。

 「正確には、盗賊兼商人なんだろうけど」


 「そんな兼業が、あってたまるかよ。で、どうすんだ、ルーテルさん。さっそく魔法を使うのか?」


 「あたりまえだろ。いちいち、相手をしてられないよ」

 「ちげえねえ」


 ルートヴァンが思考行使したのは、物理的な高速行動の魔法だ。レベルをさらに上げると、準超高速行動セミ・ハイマニューバ超高速行動ハイ・マニューバになって、近接戦闘に応用できる。その基礎魔法は、2倍、3倍の高速化から始まる。


 しかし、なぜいま2倍、3倍で留めるかというと、持続時間が長いからである。準超高速駆動セミ・ハイマニューバ超高速行動ハイ・マニューバは、数秒で終わるし、数秒で終わらせないと人間の肉体が持たない。(当たり前だが、ストラは別である。)


 また、いきなり転送魔法で消えては、この隊商が領主の手の者だった場合、すぐさま領主に報告され、藩王に情報が伝わるのは確実だ。転送魔法はそれほど高度な魔法であり、使い手が限られる。チィコーザの商人がどこかの高位魔術師だったというのは、いかにも怪しい。


 (な、なんだ……やけに足が速いな、あいつら……)


 隊商の連中が、荒涼とした街道をどんどん遠ざかるルートヴァンとフューヴァを見やって、いぶかしがった。


 この隊商は、2人が泊まっていた宿の近くに店を構えている、王都とル=サロを往復している商人たちだった。


 チィコーザの商人が直接ル=サロに来るのは珍しかったし、盗賊から命からがら逃げてきたにもかかわらず、まだ大金を持っているのも「美味しい」と思った。眼をつけていたのだ。


 宿の女将にそれとなく話を聞いて2人の出立日を知り、自分たちの出立を1日遅らせたほどだ。


 それが、追いつくどころか、1時間もしないうちに地平線の彼方に行ってしまい、見失いそうだ。


 「おい、どうなってる!」

 「こっちは、毛長牛ゲルクだぞ!」

 そう、騒ぎ出したころには、時すでに遅し。


 そして、誰も認識しなかったが、地平線から流星が天に向かって立ち上った。

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