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第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-2-8 警告音

 2人はそれから衣料店でいま着ている服の上からかぶる様に着こむ暖房と砂除けを兼ねた独特の民族衣装を買い、旅をする道具や旅用の糧食、袋のような革の水筒に入れた水を買いこんだ。本来はこれらを毛長牛ゲルクに積むため、大がかりな用意をするのだが、どうせ魔法で飛んで行くつもりなので、持てる範囲で買った。


 従って、あまり遠出をするように思われなかった。


 それが良かったのか、後をつけて街を離れたら襲おうという輩や、街道筋の盗賊団(警備兵である)に情報を売ろうという輩は、パッタリと近づかなくなった。なぜ分かったかというと、魔法の警告音がほとんど鳴らなくなったからである。たまに小さく鳴るのは、巾着切りスリくらいのものだった。


 「現金なもんだぜ……」

 フューヴァが、呆れて声を上げた。

 「だんだん、コツがつかめてきたね」


 けっきょく、昼は食べずに午後の中ごろに荷物を抱えて宿へ戻り、部屋に入った。


 しばらくは何を云うともなく2人ともそれぞれの簡素なベッドで横になって休み、互いに眠ってしまったと思っていたが、フューヴァがふと、


 「ストラさんは、あの島の魔王を倒したのかな」

 天井を見上げたまま、そうつぶやいた。

 ルートヴァンが腕枕でフューヴァを向き、


 「きっと、倒しているさ。間違いなく」

 「ルーテルさん、分からねえのかよ?」

 「うー~ん……」

 ルートヴァンが珍しく、口を尖らせて唸る。


 「スーちゃんの魔法は……いや、それはもうきっと魔法じゃないんだろうけど……僕にはそれがなんだか分からず、魔法としか云いようがないから、そう続けるけど……スーちゃんの魔法は、魔力を使わないから、追えないんだよ。僕をもってしても」


 「無事にプランタンタンとペートリューを救ったかどうかも、わからないのか……」


 「スーちゃんを……聖下を、異次元魔王様を信じるほかはない」

 「もちろん、信じてるさ!」

 「そうこなくっちゃ」


 (なにせ、ストラさんを世界の王にして、神にするんだからな! その先に、アタシの御家復興もあるんだ!)


 フューヴァは他愛も無く、まだそう思っているが、それはもう、御家復興などと云うレベルではない。


 しかし、フューヴァには、それ以上は考えつかなかった。

 フューヴァは大きく息をつき、瞑想するように眼をつむった。

 そのうち、本当に眠ってしまった。


 その、日焼けし、旅に疲れたソバカスだらけの地味な横顔を、ルートヴァンは飽くことなく見つめ続けた。



 「フューちゃん、晩御飯だって」

 ルートヴァンの声に、フューヴァは反射的に飛び起きた。


 まだ、ギュムンデで生活していたころのクセというか、習慣が抜けないでいるのだ。


 起きろと云われたら逃げる、という……。

 特にストラと離れてから、また色濃く蘇ってきていた。


 「ああ」

 脂ぎった顔を手でぬぐい、フューヴァは深呼吸した。


 (ここはもう、ギュムンデじゃねえ。それに、ルーテルさんは味方だ……)


 パン、と頬を叩き、

 「さ、メシくってまた寝るか」

 努めて、明るく振舞う。

 それを見越してルートヴァン、

 「酒でも、頼んでみる?」


 「いいねえ。でもそういや、どんな酒があるんだろう? ワインじゃねえような」


 「確かに」


 食堂に行くと、始めて他の宿泊客と相席になった。がっしりとした、屈強な壮年の男だった。兵士かと思った。


 とたんに、魔法の警告音が鳴ったので、もう笑うほかはない。



 「肉もマズイけど、あの酒もひどかったな」


 毛長牛ゲルクの乳酒(毛長牛ゲルク乳を発酵させ、蒸留して作った酒である)を小さなカップでストレートに飲んだフューヴァの、素直な感想だった。


 「けど、あれも肉と一緒にったら、まあまあだったよ」

 「そこまでして、飲みたくねえや。こちとら、ペートリューとは違うんでね」

 「まあね」

 ルートヴァンが笑う。

 「さて……」

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