第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 1-2-1 連続長距離転送
「そのうち、慣れますよ……慣れです。慣れ。さ、参りましょう!」
シーキが、乗っている毛長牛を進めた。
(慣れたくないなあ……)
3人が3人ともそう思って、無言でシーキに続き毛長牛を出発させた。毛長牛は、簡単で短い練習で、すぐに3人ともまずまず乗りこなすことができた。
天気は晴れていたが、冷たく乾ききった風が、容赦なく4人に吹きつけた。
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時間は少々遡り、ゲベロ島を脱出したルートヴァンとフューヴァである。
どんなに高魔力、達人の転送魔法でも、最大で100キロを行くのがせいぜいだ。魔王か準魔王クラスになると空間転移法を使用できるので、魔力の続く限り距離は関係なくなるが、行く先の地理に詳しい必要がある。地面は思っているより高低差があり、地面の下に転移する可能性すらあるからだ。なにより、惑星は丸い。もっともストラのように、転移しながら空間座標を探査・固定できるのなら話は別だが……それはもはや、人間業ではない。
ルートヴァンは、合魔魂の秘儀による父王太子より魔王に匹敵する魔力を供給され、かつ魔術も極めているので、空間転移が使える。
が、緊急脱出の今、そのような理由で闇雲に空間転移を行うわけにはゆかぬ。
とにかく、音速を超える速さでぶっ飛ぶしかない。
それは、超高速行動に近い移動だった。
だが、ゲベロ島から最も近い陸地まで、少なくとも3000キロはある。
30回は連続して転送しなくてはならない。
「しっかりつかまっててよ、フューちゃん!! 落っこちてもこの速度じゃ、助けきれないかもしれないからね!」
「ルーテルさんこそ、陸地まで飛びきれんのかよ!?」
「云ってくれるじゃあないか! 見てなよ! 」
「望むところだぜ!!」
ヴィヒヴァルンから大量の魔力が空間を超えてもたらされ、ルートヴァンが長距離転送術をかけまくった。
魔法効果範囲外の者にとっては、夜空の海上を真横に流星が飛んでいるように見えただろう。
転送が10回を超えるころには、衝撃と疲労でフューヴァは失神してしまった。
ルートヴァンが、しっかりとフューヴァを抱きかかえた。
20回を超えると、さしものルートヴァンにも極度の疲労が襲ってきた。
なにせ、こんなことは生まれて初めてであるばかりでなく、シミュレーションすらしたことがない。無茶ぶりも無茶ぶり、魔術の常識を超えた、想定外にも程がある、まさに臨機応変、戦場の実戦魔法なのだ。
(クソッ……転送距離が、落ちてきたぞ……!)
眼もかすみ、フューヴァを抱く腕も痺れている。魔力で押さえているに等しかった。幸い、魔力だけは無尽蔵に近い。
だが、その魔力を使う人間に限界が来ている。
下を確認したが、まだ海上なのか、陸地に到達しているのかも分からなかった。
(気合を入れろ!! ルートヴァンンン!! ヴィヒヴァルンの誇りにかけて、聖下の御期待に応えて見せる!! 父上、御爺様!! どうかこの未熟者に、栄光ある王国の勇気と力を!!)
ルートヴァンが、魔術を同時行使。
回復魔法を自らにかける。
しかし、ヴィヒヴァルン流の回復魔法は外科的な傷の治療に特化し、純粋な体力回復は得意ではない。
が、ルートヴァン、ウルゲリアで神聖魔法を実際に見やり、また大魔獣ランヴァールの上でチィコーザの特務騎士の治療に失敗したことを経験している。
この土壇場で魔力の振動数を調整し、神聖魔法に近い回復術を行使することに成功した。
一気に体力が全回復……とまではゆかなかったが、1/4ほどだったものが、半分ちょっとに回復したイメージだった。
(もう少し、飛ぶぞおおおッ!!)
気合を入れ直したルートヴァンは、そこから一気に12連続長距離転送をかけた。
気がつくと、枯れた草原に倒れていた。
地面が、異様に冷たい。
空気も冷たかった。
日が、暮れかけていた。
薄暮だ。
ルートヴァンが息を飲み、飛び上がる様に起きた。
周囲を見渡し、寒さに震える。
(り、陸だ……陸地に落ちている……! と、いうことは、ガフ=シュ=インに入ったのか……?)
そして、ハッとしてフューヴァを探した。
少し離れたところで、同じく枯草の上に横倒しに転がっていた。




